心に響く「時代」や「暮らし」
|100年後まで残したい料理本[5]|

100年後まで残したい料理本
〔映画監督〕三島有紀子さん

様々な方に「100年後まで残したい料理本」をお聞きしてきました。そもそも「料理本」とは曖昧な言葉ですが、「料理が素敵に描かれている本であり、時代、個人の嗜好・ライフスタイルなどが『料理』を通じて伝わってきたり、『料理』の存在が作品の味付けになっている本のこと」。そんな風に言うことにしました。例えば“主婦のバイブル”と呼ばれたレシピ本、食通の作家による随筆もアリです。時代を切り取り、人生を写し出し、読み手の暮らしにヒントをもたらすことは、「料理本」ならではの可能性。人々の心に響く、価値ある「料理本」を広い価値観で集めてみれば、見えてくる何かがきっとある。そして、やがて「料理本大賞」みたいな評価軸が生まれるなど、1ジャンルとして「料理本」がさらに育っていったら面白いと思うのです。

〔映画監督〕 三島有紀子さん

[写真の場所]イズマイ
コーヒー、本、ミートパイ、そしてバーの店。店内の本棚には暮らしに根差した本が並び、東東京・馬喰町というのんびりした街の雰囲気も手伝って、とても居心地がいい空間です
03・5823・4222 東京都千代田区東神田1・14・2 パレットビル1F
10:00~21:00(フード20:00LO、ドリンク20:30LO)、日10:00~19:00(フード18:00LO、ドリンク18:30LO) 無休

食べる人と料理する人。 私の中で対をなす、2つの物語。

料理するのも食べるのも好きだから、食べることがちゃんと描かれたシーンのある作品が好きだと三島さんは言います。「食べもので人間関係を表現できると思っています。『センセイの鞄』では、主人公(ツキコさん)とセンセイが居酒屋でバッタリ再会するとき、まぐろ納豆、きんぴら蓮根、塩らっきょうを同時に選ぶのをきっかけに仲良くなる。この店に来たらこれだよね、と趣味が合うのは、何かしらの波長が合うということ。食べるものを見ると、その人の生き方や暮らしぶり、哲学のようなものまで見えてきますから」 好きなのは、ツキコさんが親しくなったセンセイを思いきって旅行に誘う場面。「彼女は『センセイ、鮎はお好きですか?』と聞くんです。旅へ誘うのに、食べものがきっかけになる台詞なのはドキッとしませんか。センセイは『魚はおおかたのものが好きですね』とつまらない答えをするのだけど、そんなやり取りもいい」 そんな三島さんの実家は和食一家。母が仕出し屋の娘だったから、食に対しては厳しかったそう。台所は聖域だから怖くて入れない。そんなお母さんがつくる、具だくさんの味噌汁が大好物だったとか。「本格的な仏蘭西料理を食べたことがなかったから、学生のとき観た映画『バベットの晩餐会』とその原作本は、私のちょっとした“文明開化”でした。白いテーブルクロスに給仕されるフランス料理の数々。バベットがつくる『うずらの石棺風パイ詰め』なんて、見たことも読んだこともなかったです」 専用のブックカバーをかけ、この本を何度も読み返していると言う三島さんが、主人公、バベットに惹かれたのは?「私の映画に出てくる料理はその土地の素材をシンプルに調理することが多いのですが、彼女は芸術家であるために、自分の考える最高の食材で、最高の仕事をしようと思う料理人。何かを表現する人の生き方として、考える部分が多いです。自らができる最高の仕事をしたいという抑えられない欲求に強く共感します」

SELECTED BOOKS

川上弘美・著 文春文庫 576円

センセイの鞄

駅前の居酒屋で高校の恩師と再会したツキコさん。以来、肴をつつ き、酒をたしなみながらセンセイと心を通わせていく、2人のゆったり とした日々を描く。谷崎潤一郎賞受賞

バベットの晩餐会

ある老姉妹の下でメイドとして働いていたバベットが、富くじで得たお金で、彼女の愛する姉妹とその親しい人のために宴を準備する。芸術的な料理の数々が特別な夜に奇跡を起こす…。映画化もされている

c 2014 『ぶどうのなみだ』製作委員会

映画『ぶどうのなみだ』
北海道・空知地方。父が遺した小麦畑と葡萄の樹のそばで、兄のアオ(大泉洋)はワイン、弟のロク(染谷将太)は小麦を育てながら暮らす。そこへ旅人のエリカ(安藤裕子)が現れ、新しい風を吹き込んでいく。2014年10月4日(土)より北海道先行ロードショー。10月11日(土)より全国ロードショー
監督・脚本:三島有紀子

〔映画監督〕 三島有紀子さん

〔映画監督〕 三島有紀子さん

大阪生まれ。NHK入局後、市井を生きる人々のドキュメンタリー作品を企画・監督。独立後、映画『しあわせのパン』(2012年)でオリジナル脚本・監督を務め、小説も執筆。最新作『ぶどうのなみだ』が10月11日より公開に! また、同小説もPARCO出版から刊行される。他、待機作に映画『繕い裁つ人』(主演・中谷美紀)

Photo 佐藤航嗣(TRON)Text 神吉弘邦
※こちらの記事は2014年9月20日発行『メトロミニッツ』No.143に掲載された情報です。

更新: 2017年4月5日

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