”豊食の時代”を振り返る

|Tokyo Food Journal[21]|
TFJ 2015 Review
「オトワレストラン」オーナーシェフ
音羽和紀さん

それぞれ異なる「食」のシーンで活躍されている方々に、ご自身の活動に基づいて“東京観”や“時代観”をお聞きしたインタビューです。

宇都宮「オトワレストラン」オーナーシェフ|音羽和紀さん

p51-01

1970年に渡欧。フランス料理界の重鎮、故アラン・シャペル氏に日本人として初めて師事するなど、約7年間にわたって修業する。1981年、地元・宇都宮にレストランを開店。以来、地場の特産品による料理開発など、地域の食に関する活動も精力的に行う。レシピ本も多数出版しており、この12月には『シェフに教えてもらったシンプルですてきなおもてなしフレンチ』(柴田書店)を刊行。

音羽シェフは、まだ東京でさえフランス料理店など数少なかった80年代初頭に、栃木県にレストランを開いたという異端児。それから約34年が経ち、まもなく満を持して東京に出店すると言います。しかも、奈良県のオフィシャルレストランだとか。

「34年前から、地域の食材を使った料理で地域の魅力を描く時代が来ると信じていた」

34年間、宇都宮ひと筋で店をやってきた僕が、なぜ今東京に出てきたのか?恐らく疑問に思う方もいるかもしれません。確かに僕自身は、フランスを初めヨーロッパでの修業を終えた後、故郷の宇都宮にレストランを開き、現在に至ります。今回の東京出店は、3年前からある食のプロジェクトで奈良県とつながったのがきっかけです。

ご縁ができてからは、大和や飛鳥文化など、日本の歴史にとって大切な部分を担っていることや、実は、発酵、醸造、熟成の食文化も発達しているという奈良の奥深い魅力に気付きまして。京都のような華やかさはないかもしれませんが、奥に潜んでいる何かを引き出せたらと思っています。そもそも、僕が考える「レストラン」というのは、まずその土地の風土があって、そこから生まれる食材を提供する場所。

その地域の良さを表現するのが、地域における「レストラン」の役割です。だから、それが例えフランス料理であっても、自分が開く店は地域性を出すべきだと思っていました。その考えに至ったのは、27歳、フランスはリヨン・ミヨネ村の三ツ星レストラン「アラン・シャペル」で働いていた時です。

いえ、正確に言うと、店の営業が終わった深夜、ミヨネの村人に空手を教えていた時のことです。彼らが「俺の村はいいところだろう?」と誇らしげに言うので、最初は、「アラン・シャペル」があるから「いい村」という意味かと思ったのですが、どうやら違う。彼らは、有名店の存在は関係なく、村の小さなビストロで、地元の食材を使った料理に、地元のワイナリーが造るワインを飲むことが幸せなんです。

そこで、ハッとしましたね。「お前にとって幸せとはなんだ?」と自問自答しました。実は、渡欧した際には、絶対に宇都宮には戻らない、東京で店を出すと決めていましたが、「レストラン」の本質はそうじゃない。地域にあるもので地域を大切にするのが「レストラン」で、今後、必ずそういう流れが来ると思いました。

東京には物は集まりますが、農産物を生み出す場所ではないですからね。まぁ、仲間だった熊谷喜八さんや石鍋裕さんには当時、なぜ東京ではないのかと言われましたが(笑)。もちろん、東京はマーケットが成熟しています。それはレストランを開く上で有利なことは事実。でも、僕は器用じゃないから、情報量の多い東京に居たらくたばっていたかもしれません(笑)。

料理についてじっくり考えるには、僕にとっては栃木が良かった。あれから約34年が経ち、時代も変わり、ようやく今までやってきたことが、地域の人たちにもより理解されるようになってきたと実感しています。こうして、地元に根付いた経験があるからこそ、今度の「奈良」の話が来たのだと思います。

では、そんな僕が、今度は、奈良をどう消化して、料理でどう表現していくか?まず考えたのは、白金台で奈良と〝人々をつなぐ?ということの意味です。奈良の発信はもちろんですが、さらに、住宅街である白金台だからこそ、ご近所の方たちとじっくり出会っていける可能性がある。この場所や料理を通じて、「奈良」と「白金台」という地域がつながり合っていけたらと思っています。

料理の内容については、3人の子どもたちとも試行錯誤しながら模索しているところ。わが家は現在、長男が「オトワレストラン」の料理長、長女はアメリカでホスピタリティを学びサービスを務め、そして次男がこの奈良のレストラン「シエルエソル」の料理長となります。ここでは改めて奈良の食材を再発見して、料理に取り入れたいと思っています。

例えばタルタルソースもピクルスが入っているから、奈良漬けをそんな風に新しい食材として考えてみようかな、とか、熟成させた三輪そうめんをどう取り入れようかと話しているところです。今回、タッグを組む「くるみの木」の石村由起子さんは、いい意味で土地へのこだわりが大変強い方で、その点では僕と共通点があります。

奈良の食材にも精通している石村さんがよその人間と組むのは珍しいようです。そういった出会いを大切にしながら、コースの流れの中で、どこかに「奈良」を感じてもらえたら。栃木で培った「音羽ワールド」ですが、食事をした後に、結果として奈良へのイマジネーションがわき起こるような、そんな体験ができる場にしたいですね。

2016.01.07OPEN 奈良の食のアンテナショップ 「ときのもり」

1月7日、白金台にオープン予定の「ときのもり」は2フロアに分かれている。1Fは、「くるみの木」の石村由起子さんが運営するショップ&カフェ「LIVRER」(リヴレ)。2Fは、「オトワレストラン」によるフランス料理店「CIELETSOL」(シエルエソル)。ここでしか味わえない美味しいものばかり揃え、奈良の魅力を力いっぱい伝えてくれる拠点となる。

■COLLABORATION

「くるみの木」石村由起子さん
1984年、当時まだ珍しかった“カフェ&雑貨”というスタイルの 店「くるみの木」を奈良市にオープンさせる。それは地元の食 材や伝統の大和野菜を積極的にメニューや商品に取り入れ た、奈良という土地の魅力が詰まった店で、やがて全国から ファンが訪れる有名店となった。また、現在ではミシュラン1ツ 星のレストラン「秋篠の森なず菜」のオーナーでもあり、企業 や自治体などの商品企画から町づくりなどに関わる「奈良生 活デザイン室」も手がけている。

【SHOP DATA】
ときのもり

東京都港区白金台5・17・10
【1F】LIVRER
03・6277・ 2606
11:00~18:00月・火定休
【2F】CIELETSOL
03・6721・7110
12:00~13:30LO、18:00~20:30LO 月・火ランチ定休
http://www.tokinomori-nara.jp/

 

「くるみの木」石村由起子さん

Text:浅井直子

※こちらの記事は2016年12月20日発行『メトロミニッツ』No.158に掲載された情報です。

更新: 2017年1月2日

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