”豊食の時代”を振り返る

|Tokyo Food Journal[16]|
TFJ 2015 Review
フードスタジアム編集長
佐藤こうぞうさん

それぞれ異なる「食」のシーンで活躍されている方々に、ご自身の活動に基づいて“東京観”や“時代観”をお聞きしたインタビューです。

フードスタジアム編集長|佐藤こうぞうさん

雑誌『プレジデント』で10年間の編集者生活を経て独立。2000年6月、飲食スタイルマガジン『ARIgATT』を創刊、編集長に就任。その後、『東京カレンダー』編集顧問を経て、2004年より業界系WEBニュースサイト『フードスタジアム』を立ち上げ、編集長となる

「『ブーム』というものにはあまり興味がないけど、『トレンド』は大切にしている。つまり、時代の大きな流れを捉えることだね。振り返るのは好きじゃないけど、先を読むのは趣味」。かく話す、佐藤こうぞうさん。今年は「飲食店における価値観とは?」

これまでの在り方が根本的に問い直されている。 本質的に価値のある店にならないとダメなのだ、と。」

来年、最も大きなトレンド・キーワードになるのは、「イートグッド」だと思う。これは一過性のブームではなく、必然性。時代が求めているから2?3年で終わるものではなく、5?10年かけて〝文化?へと成長していくもの。イートグッドとは、文字通り「いいものを食べよう!」という意味になるが、もっと深く「食を通じていいことをやろう」という考え方。ここにはある種のカウンターカルチャー的な要素、大手チェーンの効率主義や工業的なものなどに対するアンチテーゼもあるが、イートグッド=「生産者、飲食店、顧客がいい関係を築ける店」となる。これらの店では単に有機・無農薬野菜を提供するという部分的なサービスではなく、畑から店へ、そして店からお客へという一連のつながりそのものの価値を高めようと、真面目に取り組んでいる。そもそも「イートグッド」は、「麹町カフェ」を初め、「SUKE 6 DINNER」を手がける会社「エピエリ」が使っている言葉。彼らの店では、毎朝、契約農家や漁港まで赴き、自分たちが選んだ食材を使っていたり、調味料も出来合いのものをできるだけ使わない。SUKE 6 DINNERでは、パンはもちろんハムやベーコンなどの加工品まで、自分たちで作れるものはすべて手作りしている。しかも、決してそれを売りにしているわけではなく、〝これからの当たり前?にしようと考えている。

最近、マーケティングの分野では、「物を売るな、物語を売れ」という言葉が注目されているが、先の「イートグッド」においても、生産者と顧客をつなぐいい関係を築くには「物語」が不可欠だ。物ではなく物語を語ること、そのノンフィクションでリアルな物語をお客に伝えていくことで「独自性」や「差別化」を打ち出し、物やサービスを売っていく時代。しかも「ワケあり」や「生産者救済」など、物語は決して美談である必要もなく、要は顧客一人ひとりの心にいかに響くか、共感・共鳴、「いいね!」をいくつもらえるかが肝心なのである。その代表格と言えるのが、「塚田農場」を手がけるエー・ピーカンパニーだろう。最近は、中目黒に鴨専門店まで作ったが、この会社は〝ミッション型居酒屋?というスタイルを見出した。ミッション性というのは、「この店は何のためにあるのか」という店作りの目的が明確であるということ。というのも「塚田農場」では宮崎県の日南市に自社で養鶏場を作り、自社で漁船を所有し、東京の店に朝獲りした鮮魚をその日のうちに届けるという物語を提供している。一方、同社が全国レベルに拡大することで、宮崎県の一次産業(生産者)を活性化も手助けできるという。この取り組みが他の居酒屋チェーンとは一線を画す存在となり、同社の奇跡のような急成長と遂げた一因になったのは間違いない。

今、「居酒屋の空洞化」が起きている。これは私が飲食業界に発信している持論だが、近年、総合居酒屋業態の大手チェーンが不振に陥り、挙句の果てに低価格競争という消耗戦でお客から見放されてしまった。もはや「居酒屋」という言葉から連想されるのは、宴会、飲み放題、クーポン、そして〝甲子園?など、つまりは「業態」としての実態が見えなくなってしまっている。それを〝空洞化?と呼んでいるわけ。では、居酒屋の空洞化の先には何があるのか。居酒屋は消滅してしまうのか。いや、そうではない。大衆酒場以上、炉端・割烹以下の「ネオ居酒屋」マーケットが再編成されてくるのではないかと思うのだ。現在、起きているマーケット現象は、「客単価2000円台のネオ大衆酒場」と「客単価4000円台後半からのネオ炉端・ネオ割烹」という上下のネオ業態に二極化されている。従来の居酒屋は、安売り競争の末、もう「価格」しか軸が残っていない状態になっている。しかも、実は価格的にも1人3500?4500円と特別安くもなく、中途半端。2000年頃に起きたBSE問題に端を発し、食品偽装問題など、立て続けに起きた食の問題に対し、生産者が見える食材を広げていこうというような流れが世の中に生まれてきた中で、単純に価格的な価値だけでは外食する意味が薄れ、居酒屋にもより本質的な価値が求められるようになった。そんな中で、今、老舗の大衆酒場の人気が高まっている。どの店にも大抵「今日はあれが食べたい」と思えるような定番料理があって、価格的にも2000?2500円くらいと居酒屋よりも手頃だから週に何回でも行ける。通ううちに次第に知り合いもできるから、店にはちょっとしたコミュニティができていたりもする。2500円の中でそれだけの価値を提供できる大衆酒場ってスゴいわけ。その老舗大衆酒場のエッセンスをベースに、定番メニューや内外装を現代風にアレンジした業態が「ネオ大衆酒場」。そもそも大衆酒場と居酒屋の違いはと言えば、客単価。また、大衆酒場は地元に暮らす男性客、居酒屋には若いグループ客が多いとすれば、ネオ大衆酒場は女性の1人客から家族連れまでと客層が広い上、常連率も高い。ハードな本格設備はなくとも、このカフェ的な入りやすさを備えていることで「心のバリアフリー」をサービスの1つとして打ち出している。一方、カジュアルな雰囲気だが、和食や割烹で修業を積んできた料理人がレベルの高い料理を出すような「ネオ割烹」や、目の前で魚や野菜、肉を焼き上げる〝炉を囲む?スタイルは踏襲しながらも現代的な内装で、例えばワインとイタリアンが楽しめるといった「ネオ炉端」をコンセプトにする店も増えてきた。これらの業態は、特に「和食」が世界無形文化遺産に登録されたことと景気回復の追い風を受けているようで、これで1人4000?5000円なら行きたいと思う人も多いだろう。そして「ネオ居酒屋」は、「目の前のお客さんを楽しませる」「できるだけ個性的なメニュー、ドリンクを取り入れ、店主の個性、オリジナリティを極める」という〝居酒屋スピリッツ?の原点に再挑戦する店。この業態をリードする店を1つ挙げるなら「おじんじょ」だろう。オーナーの出身地である広島県三原市のご当地キラーコンテンツメニュー(みはら神明鶏)や、新定番メニューを揃えながら、広島県産レモンを使った「レモンサワー」など、ドリンクにも力を入れている点でも他店と差別化をしている。手作りドリンクや新しい飲み方提案をしているというのが実にネオ居酒屋らしい。客単価は4000円程度、常連比率は8?9割という大衆酒場並みの高さも実現している。

米国のファッション業界から生まれた「ノームコア」という言葉があるが、それは「ノーマル」と「ハードコア」をミックスしたもの。見た目はシンプルだが、その中に強い個性を感じることだが、今、東京にはそんな飲食店が増えている。冒頭で話した「イートグッド」も極めれば、当然ノームコアに行き着く。それは、オーガニックやロハスのようにマニアックではなく、オーナーたちの思い・個性が強いことがカギを握る。店は街のコミュニティの中に根を張り、発信力が高いほど、人が集まってくる。そして、やがてそれはカルチャーになり、街づくりにまで結びつくようなパワーを持っている。東京中の多くの店が一気にそういう方へ向かう流れが、来年あたりから加速するのではないかと感じている。

|KEYWORD|ネオ居酒屋

絶妙なこじんまり 感の店内。全25席

居酒屋らしい価格帯は変えず、「お客を楽しませたい」「個性あるサービスを提供したい」などの“居酒屋スピリッツ”の原点に挑戦する店。

恵比寿/居酒屋
晩酌屋おじんじょ
店主の熱を感じるワンフックがキモ
楽コーポレーションの「汁べゑ」を含め、20年近く居酒屋に関わってきた店主・高丸聖次さん。「僕みたいに、自分が本当に飲みたいような店を始めた30代の人が増えていると思います。ウチだったら、地元広島県のみはら神明鶏の肉汁焼き1,480円や瀬戸田のレモンを使った瀬戸田のレモン塩de酎480円など、店主との物語が見え、かつちゃんとした食材を使ったものをお出しする。そういうワンフックのある店が、こうぞうさんの言うネオ居酒屋では」。品書きは高丸さんのセレクトによる40~50種。焼酎も芋なら六代目百合など1ジャンルに1銘柄だけですが、その本格焼酎で作った乙ハイなど新定番メニューも生まれています。

晩酌屋おじんじょ
電話:03・5784・1775
住所:東京都渋谷区恵比寿西2・2・10西牧ビル1F
営業時間:17:30~翌1:00金17:30~翌2:00土16:00~翌1:00日祝16:00~0:30 無休

Text:鈴木健太
Photo:野呂美帆

みはら神明鶏の肉汁焼きや同鶏で出汁をとったふわっふ わのつくね鍋1人前980円(2人前から)

|KEYWORD|イートグッド

「自分がいいものを食べる」だけではなく、「食を通じていいことをする」という考え方。生産者との関係を大切にし、いいものをお客さんに楽しく提供することを指す。

浅草/カフェ、ダイナー
Suke6 Dinner
「イートグッド」の原点は、

お母さんが家族のために作る料理
ソーセージやベーコン類は自家製。豚肉は、芋けんぴを食べて育った四万十産。オレンジはポストハーベストフリー。しかし、声高に品質を主張せず、あくまでも「おいしく、楽しく」を軸に、今年3月、「スケロクダイナー」は、町の食堂としてオープン。こちらは、「イートグッド」を提唱する「麹町カフェ」が手がけた4店舗目です。1~2Fはダイナーのフロア。3Fはパン工房「マニュファクチュア」。そう、ダイナーで使用しているパンも自家製。「添加物は不使用。季節の果物で酵母を起こしたり、自家製ジャムを使ったりしています」と、ブーランジェの三浦隆弘さん。パン作りにも「イートグッド」の精神が宿っていますが、マネージャーの小林優太さんによると、キャッチフレーズは後から付いてきたそう。「自分の大切な人に出すように、お客さんに食事を提供したい、という気持ちが原点です。それって、お母さんが家族のために作る料理なんですよね」。だから、「イートグッド」を象徴する1皿は、イギリスの伝統的な朝食、「イングリッシュブレックファスト」。「安心でおいしくて楽しい食事は、特別なことではなく、スタンダードであるということを伝えられたら」

店内には自家製がずらり。1日中提供する「フライパンにのったイングリッシュブレックファスト」1,200円は、お母さんの味の象徴。ソーセージや豆の煮込みなど手作りの物に加えて養鶏場から直接買う新鮮なタマゴとマニュファクチュアのパンを添えています。

スケロクダイナー
[2015.03.28 OPEN]
電話:03・5830・3367
住所:東京都台東区花川戸1・11・1 あゆみビル1F~3F
営業時間:火~金 10:00~22:00LO(フード)、22:30 LO(ドリンク) 土・日・祝 8:00~
21:00 LO(フード)、21:30LO(ドリンク) 月定休

Text:浅井直子
Photo:花村謙太郎

Text:野中ゆみ(メトロミニッツ編集部)

※こちらの記事は2016年12月20日発行『メトロミニッツ』No.158に掲載された情報です。

更新: 2016年12月14日

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