”豊食の時代”を振り返る

|Tokyo Food Journal[15]|
TFJ 2015 Review
料理人
船越雅代さん

それぞれ異なる「食」のシーンで活躍されている方々に、ご自身の活動に基づいて“東京観”や“時代観”をお聞きしたインタビューです。

料理人|船越雅代さん

東京都出身。NYに留学しアートを学ぶも、料理に表現方法としての可能性を見出だす。NYをはじめ、世界各地の一流レストランや船上レストランでシェフを務める。京都で「klin」(キルン)の立ち上げに参加し、シェフ・ディレクターを務めた後、独立。京都在住

世界各地を訪れては、その土地の食材や文化を吸収し、料理をする。そんなフードセッションを様々展開してきた船越雅代さん。食とアートを融合させ、様々な垣根を軽やかに飛び越える、彼女のボーダレスな活動は、美味しさだけではない食の可能性を見せてくれる。

「料理はコミニュケーションツール。 食べるという体験には人をつなげる力がある」

料理はどんなプロセスを経ても最終的 には〝食べる?という体験でつながるのが 魅力だと思います。料理人ではない人と組 むことで、1人ではできないことが起 こったり、想像を超えることができたりす る楽しさもあります。2011年に友人 と4人で立ち上げた「UTSU-WA?」 は、そんな1つのつながりを感じるプロ ジェクト。つい先日も東京で開催したば かりですが、毎回、テーマを設けて、器と 食を愉しむ試みです。そこには、うつわ 作家や参加者、料理人が1つのテーブル を共に作ることで、コミュニケーション が生まれ、同じものを食べることでつな がることができるんです。 今年は、これまで以上に、料理が持つ コミュニケーションとしての可能性を 感じた年でした。特に、北欧には縁が あって何度か行きましたが、ノルウェー では「FOOD STUDIO」という 食を通じて人や土地にまつわるストー リーをシェアするプロジェクトで料理 をし、デンマークでは、オーガニック ビールの醸造家「Bogedal」とコ ラボレーションして「イート・イン・サイ レンス」(静寂の食卓)という実験的な試 みを行いました。 イート・イン・サイレンスは食事会で はありますが、その間、すべての会話が 禁止になります。共に食すことで空間や 時間を共有するという行為に国境はな いと思いますが、そこには会話があり、 言葉の違いなどからコミュニケーショ ンに差異が生まれるもの。その言葉を封 印して食卓を囲むとどうなるのか。純粋 に食べるという行為だけを共有すること から、何が生まれるか。参加者は国際的 で、デンマークの著名な小説家など、ぜひ 食卓を囲んで会話を楽しみたい人々ばか りで、私自身も含め皆最初こそ話したい 欲求と戦っているようでしたが、少しず つ食べる行為に集中していき、会話がな い分、笑顔や目で語り合い、乾杯を何度も し、笑顔で肩を組んで帰って行った光景 が、まるで幼少の頃大好きだった絵本の ように心に刻まれています。

私は、今、フリーランスの料理人とし て活動しています。私にとって、食は小 さい頃から好奇心の対象でした。料理を するのも大好きでしたが、高校では彫刻 を専攻し、アートを学ぶためにNYに留 学しました。自分はアートをやっていく ものだと自然と思っていたので、当時は まだ、料理を職業にしようとは考えてい ませんでした。ところが、そのNYで改 めて料理と出合い、料理を通して表現す ることのストレートさに魅力を感じた んです。 大西洋を中心に巡る船上シェフを やっていた時には、パプアニューギニア やインドネシアの奥地など、辺鄙な土地 にも行きました。中には、火を起こすと ころから料理が始まるような場所もあ りましたが、その場で感じたことや吸収 したことを即興で表現して、そこに居合 わせた人と味わう。そんなジャズのフ リーセッションみたいな時間にワクワ クしました。食材はどこに行っても、そ の土地のものを使うことを心がけてい ます。食材を知るために生産者とも積極 的に会話をするし、現地の人に料理法を 聞いたりもします。好奇心に忠実に動い ていると縁がある人とつながり、土地に も呼ばれるような気がするんです。こう した体験がきっかけとなり、訪れた土地 を、自分を通して料理で表現することを 各地で行うようになりました。その活動 を通じて出会ったサンフランシスコや 北欧の人々とのコラボレーションや交 流も、表現の幅を広げてくれたと思いま す。 こうして、いろいろな場所で人とつな がりながら料理をしていますが、今の拠 点は、京都です。海外に身を置く時間が 長いと、自分は日本人であるということ を意識します。しかし、そんな私は京都 の友人から見ると日本人の姿をした外 人に映るようです。常にマイノリティー としてその場所に身を置き、その地を 「食」を通じて研究、表現するのが性に合 うのでしょうか。そして京都に住んでか ら初めて東京を自分のルーツとして意 識しました。神田生まれ(育ちは千駄木) ですが最近は東京に戻ると、家族代々 通っているいわゆる江戸前のお店に足 を運び自分のルーツを再確認します。 来年は奈良の食に関するプロジェク トが控えており、奈良を通じて日本の食 のルーツを探り世界に紹介していけた らと思っています。

■PROJECT |OWARIYA × MASAYO FUNAKOSHI|

船越さんと550年の歴史がある京都の蕎麦菓子専門店「本 家尾張屋」とコラボし、現在、期間限定でカフェを営業中(~ 2016年3月27日)。定番の「そば餅・蕎麦板・蕎麦ぼうろ」の3 種と蕎麦粉を組み合わせたスイーツ、国産蕎麦粉を使ったト ルティーヤによるタコスランチを有田焼の新ブランドにのせて 提供するなど、アイデアに満ちた蕎麦メニューが揃っている。 場所は、京都の「本家尾張屋 綿富小路地店」 http://honke-owariya.co.jp/

UTSU-WA?

船越さんを含む4人の女性メンバーで、2011年より始まった活動「UTSU-WA?」。四者四様で「食」へアプローチしながら、うつわと料理を楽しむシークレットレストランを不定期で開催している。使用するうつわはこの会のためにわざわざ作家が制作し、当日は作家も参加するという贅沢なプロジェクト
utsu-wa.com

Text:野中ゆみ(メトロミニッツ編集部)

※こちらの記事は2016年12月20日発行『メトロミニッツ』No.158に掲載された情報です。

更新: 2016年12月14日

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