ABOUT RESPECTED SUSHI
なかなか敷居を超えられずにいる私たちに、教えてください

|尊敬できる鮨[10]|
尊敬している鮨屋のこと

鮨好きの多くはそれぞれ馴染みの店があるものです。
季節ごとに通ったり、ここぞという時に訪れたり、
はたまた忘れられない1貫と出合った思い出深い店があったり…
様々な業界の鮨通で知られるみなさんはどんなお店が思い浮かぶのでしょう?

映画監督・漫画原作者「早川光さん」

【Profile】
映画監督、漫画原作者、著述家。週4軒ペースで鮨を食べ歩き、その知見は多くの鮨職人から信頼を集めている。当時24歳で書き上げた『すし 江戸前を食べる』(鳳山社)、『日本一江戸前鮨がわかる本』(ぴあ)をはじめ、ミシュラン3ツ星の名店「鮨水谷」を長年取材して執筆した『鮨水谷の悦楽』など鮨に関する著書多数。漫画『江戸前鮨職人きららの仕事』(集英社)の原作も手掛ける。現在、BSTwellVにて『早川光の最高に旨い寿司』のナビゲーターを担当。

店の掃除から、鮨を握るまで妥協なき職人魂に尊敬を覚えます

漫画『江戸前鮨職人きららの仕事』でも書いていますが、僕は「鮨職人はアスリートだ」と思っています。職人仕事は「体で覚えるもの」ですから毎日の鍛錬がものを言い、1日でも早く修業を始めた方が、上達します。プロ野球の選手になりたいのなら、リトルリーグから始めた方がいいのと同じ理由です。築地「鮨つかさ」の親方・高橋さんは中学卒業と同時に鮨の道へと進まれたわけですが、とにかく握りの数をこなしてきた腕前はさすがの一言。また、弟子に仕事を任せすぎたり、産地のブランドやトレンドに惑わされたりせず、自らの仕事を全うする姿勢も大事です。下北沢「鮨福元」の福元さんは目利きの達人。産地にこだわることなく、その日のベストの魚を己の目で選ぶ。銀座「鮨青木」はロール鮨など斬新なスタイルも取り入つつも、江戸前の伝統を守る姿勢にブレがない。浅草「鮨一新」はわざわざ手間のかかる昔ながらの道具を美味しい鮨のために選んでいる。それぞれの仕事に対する姿勢がとても素晴らしいと思うのです。と、ベテランの名前が並びましたが、最近は若い職人の活躍にも注目しています。例えば四谷三丁目「鮨わたなべ」。10年前に比べて「店を小さく構え、席数を減らすかわりに、客単価を高く設定して、利益を上よう」という店が増えている中、誠実な価格設定とそれに見合った、いやそれ以上の仕入れと仕事を施した鮨で、5年後がとても楽しみなお店です。

鮨福元(下北沢)
以前は「すし処澤」という名前で営んでいましたが、2005年3月に下北沢の南口にある現在の場所に名を改め移転。シャリの味も見事、清廉な人柄が窺える清潔感のある店の雰囲気も良いのですが、特筆すべきは特定の産地にこだわらない親方の魚の目利き

鮨わたなべ(四谷三丁目)
41歳とまだまだ若い店主が2014年にオープン。アットホームな雰囲気と、飲んで食べて15,000円程度という価格設定もあり、すでに人気店に。いい鮨ダネを使うことに貪欲で、若いながら独自のルートを開拓し、淡路島由良の海胆など貴重な素材を探してくる

鮨つかさ(築地)
1999年に創業。築地本願寺からほど近い住宅街にあるカウンター7席とお座敷1席のみの小さなお店。飾らない人柄で接客も巧みな親方は、中学卒業と同時にこの世界に入った叩き上げの職人。確かな腕前は、その長い下積み時代の修業と日々の鍛錬の賜物です

鮨青木(銀座)
名鮨職人と言われた青木義さんを父に持ち、28歳の時に若くして店を継いだ利勝さんが店主を務める銀座の名店。伝統的な江戸前鮨の店でありながら、海外にも目を向けアメリカのロール鮨など斬新なスタイルも取り入れる進取の気性に富んでいる

鮨一新(浅草)
1992年に親方である橋本さんの地元・浅草で創業。ミシュラン2015でも1ツ星を獲得。昔気質の橋本さんは仕事に一切の妥協がない。特注の蒸しかまどでご飯を炊く、氷式冷蔵庫で魚を熟成させるなど、道具にまで強いこだわりを持っています

料理評論家「山本益博さん」

【Profile】
1948年東京・浅草生まれ。1973年よりフランスへ出かけて料理とレストラン文化を研究、2001年、フランス政府より農事功労勲章シュヴァリエを受勲。2014年には農事功労章オフィシエを授与される。料理評論の傍ら、料理人とのコラボによるイベントも数多く企画。2014年9月に小学館より『鮨すきやばし次郎JIROGASTRONOMY』を出版。

店主が負けず嫌いかどうか、にぎり第一であるか。

東京の鮨店に関する著述も多く、昨年には「すきやばし次郎」についての本を出版した山本さん。今回挙げてもらった中にも、「すきやばし次郎」はじめ、その系譜をたどる店が並びました。これらの店に共通する点とは?「まずは店に漂う清潔感。そして、鮨職人の負けず嫌いな姿勢です」。負けず嫌いとは、つまり仕事に打ち込む真面目さや向上心、いい意味での頑固さのこと。「握り鮨は酢飯が第一と考え、それに見合った鮨ダネを選んだり、鮨と鮨ダネに敬意を払い、地紙(扇の骨に張られた紙のこと。流線型)の形に握る。決して『鮨割烹』や『鮨居酒屋』になっていないことが大切です。あくまで、"にぎりありき"として考え、それを変えない店と、その店主に惹かれます」。江戸前であることに実直で、余計なことをしない。そんな意思の強さがビシビシ伝わるラインナップです。

すきやばし次郎(銀座)
カウンターの中の職人と客が、たった三尺(1m弱)の距離を挟んで、鮨のみを握り、それを食べる。そんな江戸の屋台の伝統を今なお引き継ぐ貴重な店

新ばし しみづ(新橋)
江戸前鮨の老舗、浅草「美家古寿司」の流れをくんで、昔ながらのまぐろのづけ、こはだ、かすご(小鯛)などの鮨ダネを大切に扱う姿勢に共感する

さわ田(銀座)
銀座「なか田」で修業後、中野で独立。たちまち評判となって銀座へ移転。それも納得の、酢飯と鮨ダネのバランスが取れた、美しい江戸前のにぎり

鮨ます田(表参道)
こちらの店主も九州の鮨店で修業を始め、改めて「すきやばし次郎」で学んだ。「次郎」の仕事を継承しながら、独自の鮨ダネを探求する姿勢を崩さない

青空(銀座)
北海道出身の店主は札幌で修業を始めながら、さらに「すきやばし次郎」で基本から学んだ人。独立後はにぎり以外に、つまみの工夫なども素晴らしい

著述家、ディレクター「湯山玲子さん」

【Profile】
東京都生まれ。編集を軸にしたクリエイティブディレクションやプロデュース、評論、エッセイストとして著作活動を行う。著書に『女ひとり寿司』(幻冬舎)、『男をこじらせる前に男がリアルにツラい時代の処方箋』(角川書店)など。クラシック音楽イベント「爆クラ」を月1ペースで開催。

鮨屋とは、全体的な芸術体験ができる場所。

「自分の脳の中に、その味をしまい込んだひとつの小部屋ができたがごとく」。「すきやばし次郎」のひらめを食べたときのことを、湯山さんはこう表現してくれました。とてもユニークで感覚的ですが、湯山さんにとっていい鮨屋の定義を聞けばそれも納得。「いい店の条件は、食べる自分と握られたお鮨と周りのお客さん、それらをすべて含めた店のオーラを堪能する、全体的な芸術体験ができる場所ということ」。まるで小劇場で、参加型の舞台を観るように鮨を楽しむ。そこには、「どこ産の魚」とか「何日寝かせたネタ」といったウィキペディア的知識は必要ナシ。ちなみに、どんなときに鮨屋へ?「ひとつ気合いを入れたいな、エネルギーが枯渇しているな、と感じたときです」。確かに、それはてきめんに効きそう。まずは理屈なしで、感覚で味わうのもいかもしれません。

新ばししみづ(新橋)
店主の腕一本が頼りの少人数独立系鮨屋の代表格。しっかりした「男寿司」でありつつ、口内でゆるりとほどけるセクシーさの二重奏は、まさに鮨の醍醐味

二葉鮨(東銀座)
その佇まいだけで昭和にトリップ。岡本かの子の著書『鮨』に描かれる鮨屋のイメージ。酢が効いた「こはだ」は、豊饒な旨さと同時に江戸前の大胆さを感じる

海味(外苑前)
「魚をこうしたら旨くなる」という食いしん坊的アイデアのセンスが好き。エネルギッシュで陽性の店主のイメージに惑わされるが、鮨の整え方は一転繊細

銀座久兵衛(銀座)
金春通りという立地、魯山人由来というWブランドに、お客さんの華やぎが加わり、鬱々とした気分も吹き飛ぶ晴れ晴れしさ。リッチな外国人観察も趣きあり

すきやばし次郎(銀座)
あのひらめの握りは一流店の中でも別格の味わい。ネタや米の良し悪しなどという分析を超え、ただただ、「旨い」という感覚だけが脳に届く奇跡の味

Text:唐澤理恵

※こちらの記事は2015年2月20日発行『メトロミニッツ』No.148に掲載された情報です。

更新: 2016年12月8日

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