あなたのお母さんの得意料理は何ですか?

|日本の家庭料理[1]|
もっと知りたい日本の食文化 ~前編~

さて、みなさんは上の問いかけに何を思い浮かべましたか?肉じゃが、ハンバーグ、餃子、カレー、はたまた…と、和洋折衷な様相になるのでは。しかも同じ料理であっても、家によって味も形も異なるのが家庭料理の面白いところ。きっと家族の「美味しい!」のため、自己流のアレンジを加えたり、多くのお母さんのアイデアの積み重ねによるものだと思うのです。このように和食をベースに、様々な食文化を取り入れながら変化を続ける日本の家庭料理は、もしかしたら和食の最先端と言えるのではないでしょうか?というわけで今回は「家庭料理」に注目!〝知っているようで知らない和食?を見つめなおす特集をお送りします!

今や世界中で人気がうなぎ上りの「和食」ですが、実は、私たちの日々の食卓には必ずしも和食が並ぶとは限りません。しかし、日本の家庭料理の原点はやはり「和食」。では、本来の日本の食文化とはどのようなものなのでしょう?食文化史研究家の永山久夫先生にお聞きしました。

どんどん和食化する世界でも、和食らしさって何だろう?

開口一番、「世界が和食的な食事に注目しているんです」と切り出した永山久夫先生。実際、日本貿易振興機構(ジェトロ)の調査によると、アメリカにある和食の店は現在1万軒以上もあり、10年前の倍以上になっているそうですが、そこで気になってくるのは、世界各国でブームになっている和食の「和食らしさ」について。私たち日本人には身近な「和食」という存在、一体、「和食的」とはどういうことを指すのでしょう?「何と言っても、旬のいい素材を選択して、人の手間を極力かけず、素材の持ち味を生かすこと。最も代表的なのは、刺身です。刺身はそのまま〝sashimi?という言葉で国際語になっているほど、和食の象徴のようなもの。口に入れやすい大きさに切っただけで加熱もしないため省エネ料理と言えますし、素材が本来持っている栄養もそのまま摂取できるので健康にもいい。世界では、和食は〝美味しい?〝美しい?と高評価を得ていますが、今はそこに〝長寿食?という観点からも注目度が高まっているんです」2013年に厚生労働省が発表した日本の平均寿命は女性が86・41歳で世界第1位、男性が79・94歳で世界第5位。世界保健機関(WHO)が同じく2013年に発表した統計では、男女合わせた日本人の平均寿命は83歳で世界第1位。今、世界的に和食がブームとなっている背景には、「長寿大国・日本」を支える和食とは何か?何をどうやって食べているのか?について関心が高まるのは、自然な流れと言えます。「使用した食材がもともと何だったかわかるように料理するのが、和食の基本です。例えば、天ぷらを思い浮かべてみてください。衣をつけて揚げますが、元の素材の姿を生かした衣のつけ方ですよね。揚げることで、素材の水分を一気に飛ばすため、栄養もそのまま残り、持ち味はいっそう引き立つ。そして、季節の移り変わりに伴う自然の美しさをお膳の上で表現するのが和食ですから、季節の花をさりげなくあしらったりもします。健康に加えて、食べながら感性も刺激される。自国の食文化にはない和食の良さに世界各国が目覚めているんです」

歯の構造から見ると和食は全人類にベストな食事!?

さらに、和食がいかに人間本来の食 として理に適っているか、永山先生の お話は、食物を咀嚼する歯の話に及び ます。「歯の構成を意識したことがある人は 少ないかもしれませんが、実は意味が あるんです。親知らずを含めて上下合 わせて 32 本あるうち、最も多いのが穀物をすり潰す臼歯で20本、次に野菜を噛み切るのに使う門歯が8本、肉を噛みきる犬歯は4本。これは、健康を維持するための食物摂取の基本的な割合とぴったり合うと思うんです。そのまま、摂るべき食物の割合に置き換えると、60%の穀物、25%の野菜、15%の肉類などのたんぱく質。この構成に近いのが、実は和食なんですね」なんと、咀嚼器官から見ても、和食は人類にとってベストな選択肢だった!?永山先生によると、「国が豊かになると肉を安く買えるようになる。そうするとさらに肉の消費量が上がり、本来人間はそこまで肉を必要としていないから、健康にも影響が出て平均寿命が下がってしまう」とのこと。ならば、なぜ今や肉のおかずにも日々慣れ親しんでいる日本が長寿国として君臨できているのか?どうやらそこをぐぐっと底支えしているのが、日本人に欠かせない主食「ご飯」、にあるようで…。

和食に息づく郷土料理を見直して平均寿命=健康寿命に

「ご飯をどう美味しく食べるかを追求したのが和食。日本の家庭料理はすべてこの考えにたどりつきます」と語る永山先生。日本人の味の基準は、シンプルな白いご飯。米本来の美味しい甘みも堪能できれば、昔から伝わる醤油や味噌などで味付けた和の副菜以外にも、カレーやとんかつ、中華料理など、どんなおかずでも受けとめる器の広さも魅力な私たちの主食です。「和食で生まれ育った日本人だって、育ち盛りの時は肉を求めます。しかし、年齢を重ねてゆくと、どの国の人でも高たんぱく質の食事がツラく感じるようになります。その時、日本人は昔食べていた記憶があるから、野菜や魚が中心の和食に戻っていけるんですね。他国では和食の習慣などありませんから、そうはいきません。食事の内容はそのままで量を減らしていくしか術がないんです」日本人が長寿なのは、ご飯を中心にした一汁三菜があるから。子どもの頃からご飯を食べる習慣があり、たとえ流通網が発達したとは言え、やはり一汁三菜にはふるさとの味を垣間見ることができます。「その土地で採れた身近なものを工夫して美味しく食べようとするのが、家庭料理であり、郷土料理とも言えます。実は地域色が食卓に色濃く残っている地域は長寿の里でもあるんですよ。昨年6月まで世界最高齢116歳の男性がいた京都の京丹後市は、交通の便がよくないため、その分独自の食文化が残っています。土地が肥えていて黒豆や自然薯など名産も多い。ちなみに、平均寿命が男女とも全国1位なのは長野県です。こちらも昔ながらの和食を摂っていることが長寿の要因と言われています」しかしながら、平均寿命では女性で86歳を誇る日本ですが、健康寿命が下がっている状況を危惧している永山さん。介護を必要としない健康寿命は2010年の厚生労働省のデータによると、約73歳とのこと。それは、86歳までの13年間、体調不良や寝たきり状態が続くことを意味します。その主な要因は、「郷土食の喪失」と永山さんは言います。「代々土地に伝わってきた料理は、美味しいし体に良いから残っていたのだと思いますが、残念ながら食材を生み出す環境の変化や、若い人が都会へ流出して調理法が伝承されないなど、郷土料理が先細りになってきているように感じます」ここのところ話題に上がるご当地〝B級グルメ?の中に、郷土料理が形を変えて生きながらえているケースも見られます。「不思議なことに、一汁三菜という基本構成は日本中どこへ行っても同じ。ただし、日本の中でも、北と南では地形も気候も違えば採れる物も違う。自分が生まれ育った土地では昔から何を食べていたのか、周りのお年寄りに尋ねてみたことはありますか?自分に合った郷土料理を知るのは何よりも自分のためです」骨も脳も血管も、身体の何もかもがすべて今日食べた物でできているという意識を持てば、「何を食べたらいいのか?」「自分はどの郷土に属しているのか?」「今まで日本人が食べてきた物は何だったのか?」と考えるようになり、食生活の根本にある和食についてもう一度見直す良い機会が生まれそうです。すると、なぜ今、これほどまでに世界各国から和食が注目を浴びるのかが理解できるのではと、永山先生は訴えています。「言ってみれば、郷土料理の集合体が『和食』なんです。今食べている和食の中に、自分が育ったところで食べた料理に近い物が必ずあるはず。定番おかずの肉じゃがやきんぴら、おでんだって、地域によって特色があります。日本人は、味噌汁をテーマにしたら誰でも30分は話せると言いますし(笑)、たとえ今は離れていたとしても、生まれ育った土地に対しての愛着や記憶は残っているでしょう。毎日は難しくても、時々食卓に郷土料理を取り入れて、健康の軌道修正をしてみてはどうでしょう。明日の健康は今日の食が作ります。そこを意識していれば、平均寿命と健康寿命がイコールになるのではと期待しています」

ご飯中心の食生活で自分なりの郷土料理を組み立てよう!

地域に根差した家庭料理=郷土料理、ひいてはその集合体である和食が、日本人の健康維持に役立つことは頭で理解しつつも、日々忙しく過ごす私たちはどのようにして家庭料理に向き合っていけばいいのでしょうか。「理想は1日3回、ご飯を食べて欲しいのですが、それが難しいという人も多いでしょう。せめて1日1回、いや、やっぱりコンビニのおにぎりでもいいので、1日2回はご飯を摂るようにして欲しい。日本人の味の基準であるご飯を軸に、このご飯を美味しく食べられるおかずはなんだろう?を考えながら、加工品でもいいのでメニューを組み立てていくと、ベストではないかもしれないけれど、その人なりのベターな郷土食ができあがるのではないでしょうか。ラーメンを食べる時も、フランス料理を食べる時も〝ご飯を食べる?という言い方をしますが、それだけ、日本人にとっての主食・ご飯が食べ物全体を差す代名詞にもなっているということ。ご飯を主軸にした一汁三菜の食生活をもう一度見直してもらえたらと思います」ちなみに、永山先生の食事は毎日「一汁五菜」。魚は必ず食べるとのこと。よく笑い活き活きと話をされる永山先生に、取材終了間際、そう言えばと年齢をうかがうとなんと御年82歳!まさに平均寿命=健康寿命(永山さんの場合、平均寿命も軽々と超えていますが)を体現されていたのでした。

[永山久夫先生]

1932年生まれ。食文化史研究家。綜合長寿食研究所所長。和食による長寿を提唱し、日本の伝統的な食文化を研究している。豊富な食文化の知識に基づき、時代劇の食の考証なども行なう。『日本古代食事典』『長寿村の一〇〇歳食』『日本人は何を食べてきたのか』『なぜ和食は世界一なのか』など著書多数

献立の基本形は〝一汁三菜?

「一汁三菜」では、香の物はご飯とみそ汁の間など、器の配置も上の写真のように決められている。また食べる順は、ごはん⇒菜⇒ごはん⇒汁物⇒ ごはんのように、間にごはんを挟むというマナーも。副菜は3品それぞれに同じ食材を使わない、調理法や味付けを変えるなどの工夫もされている

昨年末、ユネスコ無形文化遺産に登録された「和食」とは?
「和食」の献立の基本は、「主食であるご飯を美味しく食べること」。そのために生まれたのが〝一汁三菜?です。副菜は、カツオや昆布の出汁を効かせた「汁物」、塩や糠で漬けた「香の物」、そして魚や肉などの主菜1品と野菜・豆類などの副菜2品の「菜」3品から成ります。

|和食=日本の食文化」である理由|

古来より日本人は、自然とともに生き、自然ともに暮らしてきました。そして季節を大切にしながら、北から南まで、それぞれ異なる気候や風土に合わせて作り出されてきた料理があります。土地、歴史や伝統、風習などを受け継ぎながら、文化として育まれてきたのが「和食」なのです。

[1]人々が生きる上で欠かせない 心と体の健康に機能します

野菜、山菜、魚介類、海藻類など、自然の恵みを存分に生かし作る献立は理想的な栄養バランス。さらに、無病息災の願をかけて食べる料理もある。例えば1月7日の朝に食べる七草粥。江戸時代には将軍家をはじめ一般家庭でも食べていたと言いますが、正月中のごちそうによる胃の負担を和らげるという理に適った行事です。

[2]「和食」には、四季を大切にし、 自然を尊ぶ精神が宿っています

大寒の頃には、高野豆腐や寒天などの寒さを利用した食べ物が作られ、酒や味噌もこの時期に造るものは美味しいと言われています。四季とともに生きる暮らしには知恵がありますが、日本人にとって食をもたらしてくれる自然は偉大な存在。そこに神を感じ、大漁豊作を願い、収穫の喜びを祭りで表し、自然を尊び感謝してきました。

[3]山里の味から漁村の味まで 和食は「郷土料理の集合体」

雪国と南国、都市、農村、漁村など、地域によって自然環境も暮らしも大きく異なる日本。そこには山海の幸、伝統野菜、発酵食品、保存食など、それぞれの土地に合わせて育まれてきた食文化があり、各地に個性的な郷土料理が息づいています。このように地域ごとに様々な食のカタチがあることも、「和食」の大きな特徴と言えます。

[4]食べることで人と人をつなぎ、 社会の要としての役割を果たします

年中行事、祝い事、祭り、寄り合いなど、人が集まる場所の中心にはいつも「和食」(行事食)があります。そして、皆で一緒に食べ時間と空間を共有することで、家族や地域の絆を深めるという、社会の要の役割を果たしているのです。皆で食べるという行為の中で、「和食」は世代を超え、長く受け継がれています。

Text 浅井直子
Photo sono(bean)

※こちらの記事は2014年5月20日発行『メトロミニッツ』No.139に掲載された情報です

更新: 2016年9月20日

この記事が気に入ったら
「シェア」しよう

最後までお読みいただき、ありがとうございます

pagetop