カルチャーミックスが生んだ焼肉という芸術品

|東京ミートアカデミー[13]|
?焼肉学部 カルビ専攻?
[参考文献]焼肉文学 Books of YAKINIKU

「焼肉の味わいをより深めてくれる本たち」
突然ですが、我々は焼肉をさらに美味しく楽しむためには?を読み解く参考として、これらの本を推薦します!

[参考文献]焼肉文学 Books of YAKINIKU

焼肉屋とは、素敵なドラマを生み出せる場所なのだ。そう、思ったのは『キッドのもと』を読んだ時。これは、漫才師・浅草キッドのふたりの自伝的エッセイ集で、子供の頃から現在に至るまでの彼らを取り巻く環境や人々、いろんな思いをまとめた本。…初めは焼肉屋のことなど全く意識せずに読み始めた。この本で出てくる焼肉の話題といえば、「羅生門」。これは、かつて一世を風靡したラジオ番組「ビートたけしのオールナイトニッポン」の収録が終わった帰りに立ち寄るのが恒例となっていた、四ッ谷の焼肉店のことで、かつてそこは弟子入り志願者たちが集まってくる場所であり、浅草キッドのふたりも、たけしさんとの初対面の場所がここだった。読んでくださいと漫才のネタなどを手渡した初対面の翌日に、たけしさんから直電話をもらった水道橋博士さん、サインをもらいに行ったら、一緒に呑んでけよ!と誘われた玉袋筋太郎さん、この2つの出会いのシーンは劇的で、ちょっと興奮させられた。その背景を支えたのが「羅生門」で、焼肉屋というのが物語にいい味わいを加えている。寿司屋でもフレンチでもダメで、焼肉店だから庶民にも親しみやすくてしっくりくるのだ。

そして庶民派というか、家族と焼肉のいい関係値を味わえる小説が『ビビンパ』。清水義範さんの短編で、読破にかかる時間はわずか5分。内容は、日曜日の18時半、商店街の中にある焼肉屋でただ4人の家族が焼肉を食べるだけの話なのだ。しかし、ここにも小さな家族のドラマが色濃く詰まっている。他愛ない会話が次々と起こる中、焼いたり食べたり注文したり、その都度、話が中断されたりと忙しない。でも、賑やかで明るくて、その忙しなさがちょっと笑える。焼肉を囲む家族の姿は、幸せの象徴だと思えてくるのだ。

一方、アツい〝ひとり焼肉?の現場を目撃できる本として紹介したいのは、『孤独のグルメ』の中の1話「川崎セメント通りの焼き肉」。仕事で訪れた工場地帯で、次の大仕事に向けて精をつけようと、〝ひとり焼肉?を初体験する主人公。物語は「うん、うまい肉だ」とか「おー、きたきたきましたよ」(注文したライスが)なんて心の声にのせて展開され、読んでいるこちらもつい主人公に気持ちを重ねてしまう。また、彼が食べる姿も音も、下手したらテレビで観る光景よりも美味しそうに描写されている。たまらなくお腹が空くのだ。肉の他に、ライス2杯とチャプチュも頼み、自分はまるで「人間火力発電所」だなんて考えながら、汗をかきかき、はふはふ、むしゃむしゃ思う存分、心のままに食べる主人公がうやらやましくなる。

他にも、2冊。まず『世界屠畜紀行』は、世界各国に動物が肉になるまでを見つめてきたイラストルポ。かわいそうというよりも、読み進むほどに面白いという気持ちが止まらなくなる、渾身の1冊。『和牛道』も偽装問題やBSEなど、的確に欲しい知識だけを学べる入門書としてとてもいい。

①『ビビンパ』清水義範・著/講談社文庫
※絶版のため入手困難

日常なのに不可思議で身近だけど知らない人々の本
表題作「ビビンパ」をはじめ、いろんな年賀状の文面を並べるだけで、様々な人生模様を綴っていく作品「謹賀新年」、他に「ご両家」「シンさん」「猿飛佐助」など、タイトルだけでも十分個性的で面白い10の短編集

②『孤独のグルメ』新装版久住昌之・原作、谷口ジロー・原画/扶桑社 1,200円

ひとりで食べることも、人間味もこの本の旨み

主人公、井之頭五郎が誰の目も気にすることなく、自由にひとりで好きなものを食する、日常を綴った作品。この新装版には、10年ぶりの新作に加え、久住昌之×谷口ジロー×川上弘美による鼎談も収録。全18話

③『キッドのもと』浅草キッド・著/学研パブリッシング1,470円

少年時代+23年間分の浅草キッドの喜怒哀楽
少年時代から師匠・ビートたけしとの出会い、浅草フランス座での芸人修業、漫才や家族や相方についてなど、漫才師・浅草キッド(水道橋博士さん、玉袋筋太郎さん)による、結成23年のセルフ・ルポルタージュ

④『極上を味わう!! 和牛道』みかなぎりか・著/扶桑社文庫 680円

美味しい牛肉を食べる前に知っておきたいミニ辞典
和牛の基礎知識から、美味しさの秘密、和牛が安心安全な理由をはじめ、偽装問題、BSE問題まで、誰もが知っておくべき和牛についての入門書。著者は「女性の生活研究室」を主催、米沢牛研究会会員でもある

⑤『世界屠蓄紀行』内澤旬子・著/解放出版社2,310円

世界の肉が生まれる現場を正しく面白く語る1冊
アメリカ、イラン、インド、エジプト、韓国、チェコ、モンゴル、東京、沖縄など、世界の屠畜現場の珍しいルポタージュ。そこには宗教、食文化、民俗学なども絡みあう。イラストでかわいく、正しく現場を伝えてくれる

Text:野中あみ
Photo:徳田洋平

※こちらの記事は2011年1月20日発行『メトロミニッツ』No.098掲載された情報です。

更新: 2016年12月2日

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