エレガントでロマンのある

|羊肉の饗宴[10]|
羊料理の魅力を味わえる店⑥
開店25年以上の名店「北島亭」

ヨーロッパ、アジア、中東、アフリカ、アメリカ、そしてオーストラリアやニュージーランドまで、世界各地で愛されている羊肉。日本の羊肉料理と言えば、確かにジンギスカンくらいかもしれませんが、今、東京をめぐってみれば、これだけ素晴しい羊肉料理の数々に出合えます。

フランス料理「北島亭」

仔羊フィレ肉の塩包み蒸し焼きコースの一部。北島亭はオーダーが入ってから作り始める「ア・ラ・ミニュート(即座に)」が基本。仔羊の背肉を掃除するところから始まり、理想の焼き方「ビヤン・ロゼ(美しいバラ色)」を目指す火入れがクライマックス。来日するたびに毎回この料理を予約するフランス人もいたそう

「この仔羊の塩包み焼きに、今も毎日勉強させてもらっているのです」

今年、開店25周年を迎える「北島亭」のオーナーシェフ、北島素幸さんは、70年代にフランスで修業し、東京のフランス料理を牽引してきたシェフの1人。絶妙な塩加減と火入れといった腕の確かさ、毎朝、築地に出かけ、素材選びにも余念がない料理に対する真摯な姿勢で、多くのフランス料理ファンを惹きつけていますが、そんな北島さんをもってしても「いまだに到達点がわからない、最も難しい料理」と言わしめるのが、看板料理のひとつ「仔羊フィレ肉の塩包み蒸し焼き」です。きっかけは、北島亭をオープンする少し前、パリの「ジャマン」(ジョエル・ロブション氏が最初に出した三ツ星レストラン)でお客として食事をしていた時のこと。「他のテーブルに運ばれていくのを見て、これがあの塩包み蒸し焼きか、と。料理自体は、ルセット(レシピ)も知られている定番のフランス料理。でも、手間のかかる伝統的な料理だったせいか、当時日本では見かけたことがなくて。、他人がやらないならば、自分が挑戦してみようと」。フランス料理では、優れたシェフは皆、わが道を究めるオトディダクト(独学者)であると言われますが、北島さんもまたしかり。パリで実食に至らず、肉への火の入れ方は?火入れ後の休ませ方は?と、味のお手本がない料理を通して、自分の手法の枠を広げていきます。「仔羊の肉汁をピタッと閉じ込めて、それでいて火が入っているビヤン・ロゼ状態が理想。仔羊を塩とタイムなどを入れた生地で蒸し焼きにするシンプルな料理ですが、いったん焼くと生地そのものが釜の状態となり、熱を持つため、火から外して肉を休ませている間にも余熱でどんどん肉が締まってしまうんです」。じゃあ、タイミングは肉の温度を測って?「 うち、温度計ないんですよ」。えっ!?「 オーブンもないからプラック(鉄板)の上で焼いています」。じゃあ、一体見極めは…。「毎回生地を触った感覚がすべて。触ってみて、まだ柔らかければまだ中に火が通っていません。気温によってもお客さんの食事の進み具合によっても変わるので、作り始めて30年近くたった今でも、肉との向き合い方の基本を勉強させてくれる料理です」。ロブション氏のやり方とは異なるかもしれない。でも、わからないことでも挑戦し続けていけば、いつしか自分だけのやり方をものにできる。仔羊の塩包み蒸し焼きは、そんな北島さんの料理哲学が味わえる1品。今日も厨房では、仔羊と対峙する北島さんの姿があるに違いありません。

付け合わせの「グラタン・ドフィノワ」は、フランス・ドフィーネ地方の郷土料理。生クリームなどで煮たじゃがいもに、クリーミーな味わいのグリュイエールチーズを載せて焼き上げた素朴なグラタンで、フランスでは肉料理の付け合わせの定番

Chef : 北島素幸 さん

1977年渡仏。「トロワグロ」「エルガーリッシュ」「ロティスリー・シャンベルタン」など6年半の間に15店で修業。帰国後は「ドゥ・ロアンヌ」「パンタグリュエル」のシェフを経て、90年「北島亭」をオープン。2015年で25周年を迎えた

きたじまてい
TEL:03・3355・6667
住所:東京都新宿区三栄町7 JHCビル1F
営業時間:11:30~13:30LO、18:00~19:30LO 水・第1、3火定休

Text:浅井直子
Photo:中村総一郎

※こちらの記事は2015年2月20日発行『メトロミニッツ』No.147掲載された情報です。

更新: 2016年12月9日

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