|地中海料理という、暮らし方。[10]|

よく働き、よく食べ、よく笑え。
《地中海式・心と体の栄養学》

地中海料理が無形文化遺産に登録された背景は、「健康」や「長寿」という2つのキーワードが大きな役割を占めています。地中海地域の人々は、長い年月をかけてそのライフスタイルを築き上げ、受け継いできました。ここでは、そんな理想的な食生活モデルをひも解いていきたいと思います。

地中海料理のルーツをたどろうとするなら、誰でもきっと『サレルノ養生訓』という書物と出合うことになるでしょう。それは、9世紀に設立されたヨーロッパ最古の医学校「サレルノ医学校」の医師らにより、11世紀に著された健康読本です。「よい食事」の摂り方を中心に、入浴法や睡眠などあらゆる生活習慣についての指標を、予防医学の見地から一般大衆向けに解説しています。そんな中世に書かれた本を翻訳し、2001年に出版したのがウェルネスササキクリニックの院長、佐々木巌先生。先生は地中海地域に造詣が深く、「地中海料理」というか「地中海式ダイエット」の魅力を広く発信しています。

そこで佐々木先生にお会いし、地中海地方の健康的な暮らしについて、話をお聞きしました。「『サレルノ養生訓』は誰が読んでもわかるような平易な文で、耳に残るように詩の形式で書かれているのが面白いところです。現在、本国イタリアでは、若者たちは知らない人がほとんどですが、高齢者は子どもの時に大人から古くからの言い伝えとして、その詩の一節をよく聞かされていたそう。内容は、食事療法についてはもちろんのこと、快活に生活するためのヒントが散りばめられています」1000年のもの長き時間、地中海沿岸の人々の傍らにあり、健康的な暮らしを支えてきた『サレルノ養生訓』は、11世紀から17・18世紀頃まで、時代ごとに新たな見解を書き足されていたという歴史的価値の高い書物でもあるそうです。

「そんな地中海地域の人々のライフスタイルが見直され、モデル化されたのが1993年。WHO(世界保健機関)が主体となって、食のピラミッドというものを作りました。これは地中海地域の人々の食生活を表していますが、ピラミッドの下に行くほど日常的に、多く摂取している食材です。食事の体系がこのような『地中海スタイル』であると健康に良いのだと実証されています。その特徴としては、まず主たる脂肪源としてオリーブオイルを使うこと。そして、旬の野菜や果物、小麦などの穀物類を毎日食べ、タンパク源としては習慣的に魚介類を摂り、肉は控えめに。食事の間には赤ワインを適量飲みます。これに加えて、日々の適度な運動が欠かせません。しかし、運動と言ってもジムに通うわけではありませんよ。

地中海地域の人々は農業や漁業などの第一次産業に従事している人が多く、しかも崖や丘のような土地に住んでいるので、登ったり下りたりが大変。だから、運動は日常の中でごく自然に行っているのです」この食生活の中にある野菜や果物、ナッツ、赤ワインなどには、体を錆びさせない抗酸化物質が豊富に含まれているそうです。特に、強い抗酸化作用があるオリーブオイルに利点があり、がんや糖尿病、アルツハイマー型認知症など、様々な病気に対する予防効果が確認されているのだとか。

地中海料理の元祖・指南書

 

『サレルノ養生訓』を読む

サレルノ養生訓 第1話

ギリス王への手紙[序文]

サレルノ学派の医師団はイギリス王に手紙を書き送り、
健康についてあらゆる知識を授けて、こうアドバイスしました。
気苦労を背負い込まず、烈火のごとく怒ることは避けなさい。
ワインの痛飲は止め、晩餐は軽くとり、
さっと目を覚ましなさい。
食事が終わっても横にならず、午睡は避けるのがよいでしょう。
生理的要求(便意)を感じたら、我慢してはいけません。
なぜといって、それはとても危険なことですから。
これからは三つの習慣があなたの医師代わりとなります。
まずゆったりくつろぐこと、次にくよくよしないこと、最後によい食事をとることです。

サレルノ養生訓 第31話

よいダイエットとは

もし、一つのダイエットに専念してきたのなら、
あなたはどんな食習慣も急に変えてはいけません。
習慣というのは捨てるのは簡単ではないし、
よりよい習慣だからすぐに馴染めるとも思えません。
一つのやり方が長くなれば、第二の天性となり、
習慣は天性と共に、歩調を合わせて進むのです。
よいダイエットとは完璧な治療法であって、
充分考慮される価値があり、健康を確かなものにします。
自らダイエットを守ることができない国王にとって、
自国を平安に治めることは至難の業でしょう。

イタリア南部のカンパーニャ州のサレルノ。伝承によれば11世紀末、この地にあった西洋最古の医学校にて、ラテンやギリシャ、ユダヤ、アラブなど生活習慣や文化が異なる医師たちが協議を重ねた上で完成したのが『サレルノ養生訓』です。第1話はイギリスのノルマンディー公ロベールへの手紙から始まりますが、怒ったり悩んだりするのが体に良くないと助言しています(現代と変わりませんね)。原書はラテン語の詩の形式で書かれ、その後、医学校の名声が上がるにつれて英語やフランス語などの言語に翻訳されて、これまでに、世界で1500版以上重ねているそうです。

Text:山内聖子
Illustration:友田威


※こちらの記事は2015年5月20日発行『メトロミニッツ』No.151に掲載された情報です。

更新: 2016年12月14日

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