映画鑑賞のいまどきのカタチ

|“食べる”を見つめる映画[13]|
「食」と「映画」の場をつくる人々「キノ・イグルー」

映画はいまや映画館や、ホームシアターで観るだけのものではなくなってきているようです。カフェやレストランで、アウトドアで、さらにはお寺でも。それらに共通しているのは、その場で一緒に観た人たちと共有できるということ。映画の新しい楽しみ方があちらこちらで生まれています。

「キノ・イグルー」 移動映画館

PROFILE

キノ・イグルー(Kino Iglu)は、有坂塁さんと渡辺順也さんの2人が2003年に立ち上げた“移動映画館”。カフェ、雑貨屋、書店、パン屋、美術館など様々な空間で映画の上映を行っている。来年からは「あなたのために映画を選びます」という個人面談イベントをスタートさせる予定。イベントなど最新情報はHPに掲載
http://kinoiglu.com/

映画の観方を拡大させ、今の時代に合う“場”を作る。

映画を観るということは、誰かの生活を少しのぞき見するようなところもあります。他人の姿を自分に置き換えて、自分の身になって考えられるのが良いところ。中でも、食べるシーンは特に、映画の中の人物と観ている私たちとの距離が近づく効果があると思っています。『美味しそう』とか『幸せそう』など感情を共有でき、相手のことを想像しやすく、自分の記憶が呼び覚まされることがある。そんな距離感を縮めるための装置として“食のシーン”が使われていることもあると思うのです」“食べる”を見つめる映画について聞いたら、このような話をしてくださった有坂塁さん。「誰かとテーブルを囲むこと」や「何気ない日々の食事の時間」が大切に思えるという観点から、この下に並んでいる作品を紹介してくれました。
そんな有坂さんは、どんな空間も映画館に変えてしまう「キノ・イグルー」の1人。今年で13年目を迎え、「食」×「映画」の企画もこれまで無数に手掛けてきたと言います。で、最近のお仕事のことを伺ったら、いきなり「離島」×「映画」という話題に…。

「なぜかここ1~2年で、急に“離島”の仕事が増えて、今月も3回ほど『星空シネマ』を開催しますよ。当日は、100人で熱海からフェリーに乗って、会場となる初島へ向かいます。到着するのはちょうどお昼頃。午後はダイビングなど、自由に遊んで、夕方頃には温泉に入って、夕食はBBQ。で、夜が更けてきたら広場に集まって、ハンモックに揺られたり、芝生に座ったりしながら、野外の大きなスクリーンに映し出された映画を観るんです。今年の春に開催した時には、皆で『冒険者たち』を観ました。波の音が聴こえる中で、島の風景が印象的なこの作品を観ていると、今日はフェリーに乗ったなぁとか、今の自分の体験が映画の中のシーンと重なっていきます。段々、現実か映画の世界かがわからなくなるように溶け合っていくのがとても心地良いんです」

~無人島シアター~

2014年1月開催の「無人島シアター 海に浮かぶレンガの要塞」。場所は猿島(横須賀市)で、映画のスクリーンは、要塞跡のトンネル内(フランス式レンガ積みが歴史的遺産)に設置。音響は映画にぴったりの空間で、ただ真冬で寒かったためホットワインは飲み放題

~ニワコヤ映画祭~

今年で5年目、仙川駅(調布市)にある小さな手作りの小屋で、映画とごはんがセットになった世界一小さな映画祭。毎年秋に実施。上映とおはなし担当は「キノ・イグルー」、ごはん担当は「ニワコヤ」。

10月28日(水)~11月1日(日)に開催。期間中は、ランチ、ディナーで1日2回開催。今年の上映作品は、『オフサイド・ガールズ』(2006年/イラン)、『スカイラブ』(2011年/フランス)、『次の朝は他人』(2011年/韓国)、『ル・アーヴルの靴みがき』(2011年/フィンランド)。各回25名限定、1人3,000円(ごはん付き)、詳細はキノ・イグルーのHPを参照

~テントえいがかん~

多摩川の河川敷で毎年恒例の「もみじ市」に作った、世界で一番小さな映画館。収容人数は15人。1日9回上映するも、会場は1日の来場客数2万人のため、いつも長蛇の列に。ブルーのテントは、もみじ市のためにオーダーメイド

~星空シネマ~

野外上映会を楽しむ1泊2日の旅企画。場所は初島。宿泊先は、今話題の贅沢キャンプ“グランピング”。今年5月に初開催し、10月には2回目を開催した。上映作品は、1回目は『冒険者たち』、2回目は『ムーンライズ・キングダム』

そんな有坂さんの手がけてきたイベントについて、ごく一部だけご紹介しましたが、今度は「食べること」が伴うイベントについてお訊きしてみました。

「今、毎年恒例でやっているものに、『ニワコヤ映画祭』があります。会場は仙川にある小さなカフェで、映画を観た後、テーブルを囲んで皆で食べるだけの小さな映画祭です。上映作品は“お店の雰囲気に合っているか”という基準で選び、あとはお店の人たちが映画の世界観をフードで表現してくれますが、アイデアいっぱいで、いつも期待以上の料理で楽しませてくれます。映画を観終わった後の空間というのは、余韻が充満しているもの。その余韻が残っているうちに、すぐにテーブルを囲むことが大切で、場所を移動してはダメなのです。料理は大皿で、皆でシェアするようにしていますが、隣の人に料理を取り分けたりしていると自然とコミュニケーションが生まれてきて、こちらから『映画はどうでしたか?』なんて訊かなくても、勝手に会話が始まっています」

そんなニワコヤのお客は仙川という土地柄もあり、小学生の女の子が1人で来ていたり、若手クリエイティブのような人もいたり、近所のおばちゃんがいたり、様々な人が集まってくるそうですが、1つの作品を観ても感じ方が全く違い、皆の会話はなかなか面白いそう。しかし、今、特に若者の間で映画離れが起きている、と言われています。日本人が1年間に観る映画の本数は、1人当たり平均1.3~1.4本というデータもあると言います。「映画って、日常から切り離されたところに存在しているものなので、スイッチが入らない限り、皆、なかなか観ようとしてくれないのです。例えば、飲み会で映画の話で盛り上がって観たくなったり、テレビでコメントされているのを聞いて観たくなったり、その『観たい』がスイッチONになっているということ。そんなスイッチは、誰もが持っているものだと思っています。昨年、東京国立博物館の正門前に大きなスクリーンを出して上映会をやった時、800席しか用意していなかったので1,000人来たらマズいなと思っていたら、なんと約4,500人が集まりました。つまり、2日間で約9,000人です。しかも、お客さんは“映画を観ない”と言われている若い層が中心。本当は映画を観たいと思っている人はたくさんいますし、映画でしか伝わらない感動があることも、皆、ちゃんと気づいています。ただ、スイッチが入るようなきっかけがなかなかないだけ。今年、『映画館』の誕生からちょうど120周年。でも、120年って歴史としてはまだ浅く、下手したら誰か1人の一生分ほどの長さです。スピード化社会の今、技術も人々の感覚もどんどん移り変わっていきますし、スマホやタブレットでいつでもどこでも映画を観られる時代に、スクリーンと2時間向き合って静かに観るというこれまでの映画館のスタイルが必ずしも“映画を観る正しい形”だと言いきれないと思うのです。もちろん街の映画館も大事にしていきたいものですが、他の選択肢として、時代に合う“映画の場”を作っていきたいと思っています」

「キノ・イグルー」おすすめの“食べる”を見つめる映画

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ル・アーヴルの靴みがき2011年/フィンランド

フランスの港町ル・アーヴルで靴磨きをしながら暮らすマルセルは、妻と愛犬ライカとの暮らしに満足していた。そんなある日、アフリカ難民の少年を警察からかくまうことに…。移民問題を描いたちょっとユーモラスな作品。「主人公が大して稼げないまま家に帰る。そして今日の上がりを妻に渡すと、『夕食の支度をする間、どっかで1杯飲んできたら』って、少しお金を渡す場面があるんです。その後、愛犬とバーに行き、戻ってきたら食事するという流れになりますが、その食事前のやり取りを丁寧に描いていて、夫婦の関係性を上手い形で見せていて、最後までずっと心に残るシーンです」

アニー・ホール

蜂蜜2010年/トルコ

「森の中に暮らす、家族。一人っ子のユスフは吃音を持つ男の子。いつもお母さんに『ミルクを飲みなさい』と言われてもいつもどうしても飲めない。ある日、お母さんの目を盗んでお父さんが代わりに飲んでくれ、ユスフはますますお父さんのことが好きになるのですが…。そんなミルクが、お父さんとユスフの関係性を表現したり、ユスフの意思などを浮き彫りにする、その1杯の存在感が大事なのです。音楽が一度も流れない。自然の音だけ。静けさが心地いい」

アニー・ホール1977年/アメリカ

ウディ・アレン監督によるロマンスコメディ。「これも直接食べるシーンではなく、付き合いたてのカップルが調理をするシーンがあります。キッチンで、2人で料理をするのですが、巨大なエビを鍋に入れようと思ったらうまく入らなくて…。それが“付き合いたて”を象徴しているようなシーンで、物語の本筋とは関係ありませんが、人物像が浮かび上がってきたり、2人が過ごした良い時間の象徴として実に魅力的に描かれています」

Text:メトロミニッツ編集部

※こちらの記事は2015年10月20日発行『メトロミニッツ』No.156掲載された情報です

更新: 2017年1月8日

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