東京のグルメシーンをリードする

|異彩のビストロ[7]|
Irreel ningyocho
イレール[人形町]

東京のビストロが今、面白いことになっています。日本の有名なフランス料理店や、本場フランスに渡り、腕を磨いてきたシェフたちが営む、小所帯で、ジーンズでも行けて、仕事帰りにふらっと立ち寄れるお店が続々とオープンしているのです。一昔前はそんな輝かしい経歴を持つシェフたちはホテルやグランメゾンで料理長を務めるのが通例で、高級店でしかその腕前を堪能できませんでした。彼らにビストロを開いた理由を聞いてみると「フランス料理をもっと身近に感じてほしいから」と、口を揃えて言います。ここ数年、“コスパ”を重視した気軽なビストロが増え、私たちにとってワインやフレンチは身近になったように思えますが、彼らが言うのは伝統を踏まえ、現代の技術や食材を駆使した“本当のフランス料理”。料理と向き合う眼差しはグランメゾンのシェフと変わりません。本特集では、そんな数あるビスロトの中でも頭ひとつ抜けた、その本格的な料理や独特なスタイルで異彩を放っている、今行くべき店をご紹介します。

島田哲也さん-Tetsuya Shimada-

23歳で渡仏。星付きレストランを経験し、三つ星「アルページュ」では、シェフのアラン・パサールに認められ、日本人初の魚担当シェフに抜擢。パサールの野菜へのこだわり、食材の調理法に影響を受ける。帰国後の98年、恵比寿「イレール」をオープン。白金高輪「アルヴィナール」を経て、2013年9月、念願のビストロ「イレール人形町」をオープン

今までオーナーシェフとして、恵比寿、白金高輪と、フランス料理の激戦区で走り続けてきた「イレール人形町」の島田哲也さん。デリやパティスリーのショップも手がけ、一時期は5店舗を経営。そんな島田さんが、2013年、ここ人形町に、しかもカジュアルなビストロを始めたとあって、大きな話題に。「実は、以前からビストロをやるのが夢でした」と微笑む島田さんは、長年親しんだコックコートを脱ぎ、鼻歌が聞こえてきそうなほど楽しげに、オープンキッチンで腕をふるっています。最前線のシェフがビストロに込めた思いをうかがいました。

もっと、お客さんや生産者の側へ!Tシャツ姿のベテランが作るビストロの形

お客さんとの距離が近くなったことで、デモンストレーション式の料理教室もスタート。食を積極的に体験できる場所として発展中です

「白金高輪時代辺りから、週に1回食べに来てもらえる地域の食堂=ビストロへの思いがじわじわと膨らんできて」と、振り返る島田さん。「今までやってきて、何が寂しいかって、身近な友人たちからも、“フランス料理は敷居が高いから、気軽に食べに行けない”と言われたこと」。フランスの星付きレストランで研鑽を重ね、帰国後も順調に都内一等地で三つ星仕込みのオーナーシェフに。しかし、それゆえ、どうしても、恵比寿の時は年に1回、いっそう親しみやすい肉とワインにテーマを絞った白金高輪の時でも、月に1回という利用客がほとんど。もっと、お客さんとの距離を縮めたい。50歳を目前に控えた島田さんは、えいやっとコックコートを脱ぎTシャツ姿に。店内は、開放感あふれるオープンキッチン、カウンター。さらには、地元の人に気軽に立ち寄ってもらえるよう、農産物のマルシェも今後は開催する予定。なんと、先日は、埼玉県の養蜂家の方から届いたハニーコムを店頭に置き、お好きなだけすくってどうぞというサービスも!「実は、もうひとつ縮めたかったのは、生産者さんとの距離。以前、あるイベントで農家の方たちと知り合い、野菜の味が違うのはもちろん、意欲的な生産者と会話することで、自身も刺激されました。そこから、産直の野菜を積極的に取り入れています」。結果的に、それは生産者と一般消費者の距離を縮めることに。島田さんは、今、食を多面的に発信する場としてもビストロに魅力を感じています。

きびきびと料理する一流シェフの姿を眺められるのが、カウンター席の醍醐味

|EPISODE|

今もすぐ手にとれる場所にある
フランス修業時代の思い出

帰国の際、スタッフが寄せ書きしてくれた「アルぺージュ」のメニュー。中央には巨匠、アラン・パサールのサインが。「パサールは、料理の腕はもちろん一流ですが、お客さんが喜ぶことだったらなんでもするというスタンス。最も学んだのは、彼の強いもてなしの気持ちかもしれません」。厨房に持ち込み、その場で単語の意味を必死に調べた小さな仏語辞書は、使い込んでぼろぼろに。いずれも、初心を思い出す修業時代のもの。

BRILLIANT!!No.1美味しさを底支えする技術と繊細な盛り付け

和歌山産鮎を90℃の油で2時間煮込んだ「まるごと食べられる鮎のコンフィ」1,512円。3つ星レストランで魚担当だった島田さんの技術を味わえる一品左)約15種類の野菜を使った「彩り野菜のテリーヌ シークヮーサーと蜂蜜のソース」1,296円。島田さんは、身体にやさしいフレンチを意識した先駆けで野菜料理も得意。

BRILLIANT!!No.2自家製パンなど、日常を彩るテイクアウト

焼き立てのパンが並ぶコーナー。通常の何倍も加水するため型に流し込んで作る、むっちりした食感で人気の高加水パンや、フォカッチャ、ライ麦パン、キッシュ、ピクルスなど、ご近所さんが食事以外でも気軽に立ち寄れるよう、自家製のテイクアウトも用意しています。

BRILLIANT!!No.3生産者から届く野菜が料理のアイデアの源に

千葉・松戸のタケイファーム、名護のやんばる野菜に京野菜など、野菜は生産者から直接仕入れる。元々、師匠であるアラン・パサールも自身で農園を手がけており、生産者から刺激を受けるという島田さんも、野菜には並々ならぬ思い入れがある。今年からは生産者にアドバイスをするプロジェクトにも参加。

次の夢は、街に寄り添う究極の「カフェ」!

さて、ここでひとつ島田さんへ質問。新天地を、人形町に求めたのはなぜですか?「古き良き住民の結び付きが残る街なら、地域密着の店が成立しやすい。その点、人形町は理想的でした。地元のお父さん向け料理教室を開催することもありますよ」。他にも、ご近所のお客さんの縁から沖縄のレストランをプロデュースするなど、人形町に来てからは、よりアクティブに。「昔からのお客さんには、顔つきが柔らかくなったって言われます(笑)。でもね、本当は…カフェがやりたいんですよ」。えっ!?「カフェって、朝から夜まで、ずっと街の人たちに開かれているでしょう?それが羨ましくて。食事は飛びっきり本格的。でも、居心地は抜群にいいという究極のカフェをやりたいですね」。ちなみに、店名の「イレール」はフランス語で「非日常」。その世界を通り抜けてきたシェフだからこそ、日常の大切さを誰よりも理解しているのかもしれません。

Irreelイレール 人形町

東京都中央区日本橋人形町2・22・2曜・第3月曜日定休

TEL:
03・3662・0775
営業時間:
11:45~15:00(14:00LO)18:00~23:00(22:00LO)日休み
URL:
http://www.irreel.jp/

Text:浅井直子
Photo:よねくらりょう

※こちらの記事は2015年8月20日発行『メトロミニッツ』No.154に掲載された情報です。

更新: 2016年11月17日

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