|異彩のビストロ[6]|
restaurant unique
レストランユニック[目黒]

東京のビストロが今、面白いことになっています。日本の有名なフランス料理店や、本場フランスに渡り、腕を磨いてきたシェフたちが営む、小所帯で、ジーンズでも行けて、仕事帰りにふらっと立ち寄れるお店が続々とオープンしているのです。一昔前はそんな輝かしい経歴を持つシェフたちはホテルやグランメゾンで料理長を務めるのが通例で、高級店でしかその腕前を堪能できませんでした。彼らにビストロを開いた理由を聞いてみると「フランス料理をもっと身近に感じてほしいから」と、口を揃えて言います。ここ数年、“コスパ”を重視した気軽なビストロが増え、私たちにとってワインやフレンチは身近になったように思えますが、彼らが言うのは伝統を踏まえ、現代の技術や食材を駆使した“本当のフランス料理”。料理と向き合う眼差しはグランメゾンのシェフと変わりません。本特集では、そんな数あるビスロトの中でも頭ひとつ抜けた、その本格的な料理や独特なスタイルで異彩を放っている、今行くべき店をご紹介します。

中井雅明さん-Masaaki Nakai-

田園調布「セラヴィ」(現在閉店)、南青山「ラマージュ」(現在閉店)などを経て渡仏。当時ミシュランで二つ星だった「エレーヌダローズ」で魚部門、肉部門のシェフを務め帰国。2009年より目黒の人気店「キャス・クルート」のシェフに就任、4年半勤務ののち、2013年12月に「レストランユニック」開店。

得意の肉料理では、ときにイタリア産ロバなど珍しい肉を提供。シェフはデニム姿、BGMはヒップホップ。店名がフランス語で“唯一の”という意味を指すように、中井雅明シェフ独自の世界観が炸裂する「レストランユニック」は、2013年の開店以来、東京中のグルメを魅了しています。「日本のビストロは好きじゃない」。「人の店のことは全く気にしない」。36歳にして、迷いなく堂々と言い切る姿は、物腰の柔らかい若手シェフが多い中、尖った存在。その力強さは、ブレない店作りにも表れています。一度知ると虜になる、中井ワールドの魅力を探ります。

我が道を進むシェフに、ただついていきたい!ビストロとガストロノミーの心地良い邂逅

目黒駅から徒歩15分。この立地を選んだ理由はただ1つ、「賃料が安い分、食材にお金を回せるから」と中井シェフ。食材へのこだわりは、冒頭の「ビストロは好きじゃない」発言と通じます。「よくコストパフォーマンスをウリにしたプリフィクスランチを出している店がありますけど、そのために安い食材を仕入れても、ちゃんとしたフランス料理はできません。それならうちには必要なくて、ランチは1日1組限定の予約制で、真逆のことをやっています」。不必要なことはしないし、逆に、必要と思うことは徹底してやる。だから仕込みも膨大な作業量で、例えば、冷蔵庫にずらりと並ぶ肉は、こまめに布を巻き直しています。「最初は布がべちゃっとするのが嫌でやり始めたんですが、こうすることで水分が飛んで肉が締まるんです」。フランスでシェフをしていた頃が、一番仕事が楽しかったという中井シェフ。「きちんと結果を出せば、何をやってもいい。だから『こんな肉が欲しい』と思ったら自分で試行錯誤して加工してみる。やりたいことを自分でできた。逆に人の意見を聞くと、うまくいかなかったときその人のせいにしちゃう。だから僕は周りが何をしているか、全く気になりません」。中井シェフが愛するのは、フランスのビストロの気軽な雰囲気やサービスと、探求心と創意工夫に満ちたガストロノミックな料理。シェフの信念というフィルター通して溶け合うふたつが、「ユニック」にしかない個性となって、私たちを惹きつけるのです。

左)10年ほど前に合羽橋「鍔屋」で購入したナイフ1本で、肉関連のほとんどの作業をこなす。「道具にそれほど思い入れがなくて、ほとんど研いでいない」というマイペースさも下)店内には毎日好きなヒップホップ音楽をかけています

|EPISODE|

人間的成長と料理人としての成長
どちらも日本の師匠が教えてくれた


「結果を出せば何をしてもOK」というフランス時代に確立された中井シェフの自由なスタイルですが、大きく影響を受けたのは日本での修業先。「セラヴィ」の橋本シェフには、文学や美術に親しむよういわれ、勉強の仕方を知ることで人間的成長を感じたとか。完璧主義だった「ラマージュ」の依田シェフには、料理人として妥協しない大切さを教わったそう。依田シェフ(写真左)は、現在表参道「アンクルハット」で腕を振るっています

BRILLIANT!!No.1“おもしろい料理”を目指し、自在に肉を操る

左から、「ランド産鳩のロティアメリカンチェリーのソース」3,510円、「カリッカリッに焼き上げた沖縄産ロイヤルポーク皮つきバラ肉のコンフィスパイスの香り」3,240円、「前菜盛り合わせ」2,970円。どれも味、香り、テクスチャーの複雑さが、想像以上の驚き、楽しさを与える。「最近は、僕らしい、おもしろい料理を求めて来てくれる人が増えました」

BRILLIANT!!No.2近所の店で日々仕入れる藤沢野菜を組み合わせて

数件隣のアンティークショップの軒先「Atomic Lunch Market」で売っている新鮮な有機野菜を、毎日買い出しに行く。ショップオーナーが営む湘南の自社農園から届き、珍しい品種も。「近所だったことで知った店ですが、価格も安いし新鮮。その場でどう料理するか考えながら選びます」

BRILLIANT!!No.3業者を巻き込みつつ、理想の肉を求める

仕込み方法に合わせた裁断状態の枝肉など、中井シェフの卸業者への注文は細かい。それゆえ、最初は断られることもしばしば。しつこく交渉することで納品が実現した肉も多いとか。熟成肉は、シェフの知識を業者と共有しながら、1年がかりで一緒にシステムを完成させた苦労の賜物。

意味のないことはしない。必然の肉料理を作る

店名にかけた「ユ肉」という肉づくしのコースがあるほど、「ユニック」といえば肉料理。「キャス・クルート」時代、より店の個性を打ち出すために得意の肉料理に特化し、店を一躍"肉料理の名店"とさせた頃から、中井シェフの代名詞にもなっています。元々肉好きというシェフですが、理由はほかにも。「魚も好きだし使いますよ。でも日本の魚って、ヨーロッパのものに比べて味が繊細。刺身や塩焼きが一番美味しかったりします。そうやって食べる方がいいなら、フレンチでやる意味はありません。"無理はしない"というのが僕の基本的スタンス」。取り引きする業者は、肉だけでなんと7社ほど。常時さまざまな種類の肉が納品されています。メニューは、素材の組み合わせで構築的に味を作り込む、驚きや発見があるものが多数。「いわゆるビストロ料理は出していません」。パテやテリーヌといった定番でも、豪快だけれど細やかな美しさもある盛り付けに、シェフらしさが見て取れます。

restaurant uniqueレストランユニック

住所:
東京都目黒区目黒3・12・3
松田ビル1階
TEL:
03・6451・0570
営業時間:
18:00~24:00(22:30LO)月定休
URL:
http://restaurant-unique.jimdo.com/

Text:唐澤理恵
Photo:sono(bean)

※こちらの記事は2015年8月20日発行『メトロミニッツ』No.154に掲載された情報です。

更新: 2016年11月11日

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