[Tokyo Elite Restaurant]
Ma Poule

市岡徹也

文:河崎志乃 写真:松園多聞

一歩足を踏み込めば、たちまち日本にいることを忘れて、フランスの田舎町の小さな家を訪れたような温かな空気に包まれるレストラン、「マ プール」。そこには、シェフの市岡さんが愛するフランスの自然豊かな土地、ジュラの美味があります。

市岡徹也(いちおか・てつや)

1974年愛知県生まれ。大阪あべの辻調理師専門学校を卒業後、名古屋のホテルを経て「トゥールダルジャン 東京」にて修業。2000年にフランスへ渡り、ジュラ県アルボアの二ツ星レストラン「ジャン・ポール・ジュネ」他でフランスの食を学ぶ。その後、銀座「ル・シズィエム・サンス・ドゥ・オエノン」(現在は閉店)でシェフ・パティシエを務め、ブルゴーニュ「フランコジャポネ・ミヤビ」、東京「フレンチ割烹ドミニク・コルビ」を経て独立。2017年に「マ プール」をオープン。

ジュラのワインと、まだ知られざるジュラの料理を振る舞う店

ワインがお好きなら、フランスの“ジュラ”をご存知の方もいらっしゃるのではないでしょうか。約1億9960万年前から数千万年続いた「ジュラ紀」の名の由来であると言われるジュラ山脈を擁し、生命力にあふれたフランス東部の豊かな土地。ここで生まれるワインは、ヴァンジョーヌ(黄ワイン)に代表される奥深く力強い味わいが特徴で、多くのワインラヴァーたちに愛されています。そんなジュラのワインと、まだ知られざるジュラの食文化を日本の私たちに伝えてくれるのが、東大前にある小さなフランス料理店「マ プール」です。

静かな通りを進むと現れる、「マ プール」の愛らしい黄色のファザード。その前に立った瞬間から、フランスの田舎町に迷い込んだような不思議な空気に包まれます。マダムの笑顔に迎えられながら店内に足を運べば、ぬくもりのあるソファーにテーブル、ランプ、そしてマダムの手作りだというテーブルクロスなどの設えに、まるでおばあちゃんの家に遊びに来たような心地よさを感じて思わずため息が漏れるほど。どこか懐かしく落ち着きのある雰囲気に、これから始まる食事への期待も高まります。

この店でシェフとして腕をふるうのが、市岡徹也さん。フランスでも5年間ともに働きマダムを務めるゆう子夫人と2人で、2017年1月 東大前に「マ プール」をオープンし、ジュラの郷土料理をベースとしたフランスの味を伝えてきました。「料理の道に入りはしたものの、最初はフランス料理に特別な思い入れがあったわけでもないんです。ただ、専門学校で見るシェフの高い帽子や長いタブリエに憧れて、日本料理でも中国料理でもなく、フランス料理を選んだんですよね」と語る市岡さん。それからフランスのジュラに魅せられ「マ プール」をオープンするまでには、長い道のりがありました。

日本の名門レストランからフランス、そして、ジュラへ

市岡さんは調理師専門学校を卒業後、名古屋市内のホテルを経て、日本のフランス料理店の名門「トゥールダルジャン東京」へ。フランス人シェフのドミニク・コルビさんのもと、厳しい環境の中フランス料理の技術を体に叩き込みました。

「『トゥールダルジャン東京』は、400年以上続くパリの『トゥールダルジャン』が築いてきた伝統的フランス料理を提供する店です。同時に、コルビさんは伝統的料理を自分流にアレンジする才能も持っていました。私はこの店で伝統的フランス料理とコルビさん流のアレンジの両方を学ぶことができましたが、私もコルビさんのように本質的な基礎を身につけなければ、自分なりのアレンジをしようとしてもコルビさんの真似になるだけだということに気づいたんです。それでフランスに行きたいと思うようになりました」。

そして2000年に、初めてのフランスへ。最初は自身の希望でリヨンに行ったものの、修業先の店の環境や料理の味にがっかりしたそうです。そこでコルビさんに次の修業先として紹介してもらい、運命的な出会いとなったのがジュラ県アルボワのミシュラン二ツ星レストラン「ジャン・ポール・ジュネ」でした。

「またリヨンのお店みたいなところだったらどうしようと思っていたのですが、ジュラの『ジャン・ポール・ジュネ』は本当に素晴らしい店でした。シェフのジャン・ポール・ジュネさんは、大きな手と優しい声の人で、店のスタッフ皆をファミリーとして可愛がってくれる人でした。“ジュネシェフ”ではなく、ファーストネームの“ジャン・ポール”と呼びなさいと言われて。キッチンでの仕事はもちろん厳しかったですが、あんなに温かいシェフは他にいません」。市岡さんは約2年間この店で働き、ジュラの自然とそれが育む食を学びました。

「山岳部の雪深い土地であるジュラの町が活気づくのは、6月から9月。その間はヴァン・ジョーヌを買い求める人も多く訪れ、町中がこの上なく華やかになるんですよ。周辺の湖の氷も溶けて、エクルビス(ザリガニ)や鯉、イワナなどジュラならではの淡水魚がどんどん届き、ハーブも芽吹きます。キッチンにはそれらの調理に使うヴァン・ジョーヌの香りが漂い、店内も満席。そして秋になり、キノコやジビエを楽しんだら、冬は町全体が雪に閉ざされます。昔ながらの冬の食事は、モルトーソーセージというソーセージと、ポトフ、チーズフォンデュだけ。『ジャン・ポール・ジュネ』も冬の2カ月間はバカンスに入るのですが、その前日の夜にマダムがチーズフォンデュを皆に振舞い、夕食を共にしてから休みに入るんです」。

初めて食べるのに、どこか懐かしいジュラの味を

バスクやブルターニュなどフランスの他の土地でも修業はしたものの、ジュラでの経験がその身に深く刻まれたという市岡さん。一度帰国して銀座のレストランで約4年シェフパティシエとしてデザートの腕を極めた後、ブルゴーニュの二ツ星レストラン「ラ・マドレーヌ」のシェフ パトリック・ゴーチエさんとコルビさんの共同経営でオープンしたブルゴーニュの「フランコジャポネ・ミヤビ」で約6年、日本のコルビさんの新店「フレンチ割烹ドミニク・コルビ」(現「メゾン・ド・ミナミ」)で約1年勤めた後、独立し「マ プール」をオープンしました。

長い修業を経て自身の店としてオープンした「マ・プール」で作るのは、ジュラの郷土料理をベースにしたクラシックなスタイルのフランス料理。その一皿一皿に市岡さんのジュラへの愛が込められています。

【北海道阿寒湖 天然エクルビスのコンソメジュレ】
ジュラの湖と同じ頃に氷が溶け豊かな食材をもたらしてくれる北海道阿寒湖から、ジュラでは夏の風物詩としてよく食べられるというエクルビス(ザリガニ)を取り寄せて作る一皿。淡水魚の力強い味わいにスパイスやハーブが調和する。すっきりとしていながら力強いジュラのシャルドネのワインと合わせるのがおすすめ

「北海道阿寒湖 天然エクルビスのコンソメジュレ」は、湖の氷が溶ける初夏頃からジュラでよく使われるというザリガニと、イワナの一皿。生命力あふれる淡水魚の味わいとコンソメのジュレに効かせたスパイス、フレッシュなエストラゴンの香りが食欲を引き立てます。

【伊達鶏とモリーユ茸のヴァンジョーヌソース】
市岡さんが最も愛したジュラの店「ジャン・ポール・ジュネ」の料理を再現したスペシャリテ。ジュラではブレス鶏が名産としてよく食べられる。香り高いヴァンジョーヌのソースが甘く優しく、なめらかな鶏とクミンが香るリゾットを包み込む。ヴァンジョーヌを飲みながら味わえば、お互いの風味がより引き立つ

「伊達鶏とモリーユ茸のヴァンジョーヌソース」は、「ジャン・ポール・ジュネ」の料理をそのまま再現したもの。今は閉店してしまった「ジャン・ポール・ジュネ」の味を引き継ぎ、「マ プール」を訪れるすべてのお客様に提供しています。テーブルでソースが注がれた瞬間店内に広がるヴァンジョーヌの香りは、思わずうっとりしてしまうほど芳醇。添えられたリゾットのクミンの香りが相性良く、ジュラのワインと共に味わえばお互いの風味が引き立ちより深い味わいを楽しめます。

【フォワグラと干しぶどうのトーション】
干しぶどうを詰めたフォワグラに添えられるのは、マクヴァンというジュラのぶどう酒を使ったジュレとバルサミコのキャラメルソース。ぶどうに見立てた飾りは、水の代わりに赤ワインを使い焼き上げたシュー生地。フォワグラ以外は全てぶどうをもとにしたもので、全てが口の中で一つになると、奥深い味わいに

市岡さんの料理は、それぞれに力強い味わいを持った食材や副菜が一皿に散りばめられながらも、それらを一緒に食べると、不思議なほどに調和が感じられ深みを増していく味わい。ザリガニや鯉の赤ワイン煮込みなど、初めて食べるはずの料理にもどこか懐かしさが感じられるのは、この調和があるからこそとうなずけます。

【北海道阿寒湖 天然鯉のムーレット】
今ではフランスでもあまり作られることがないという古典料理を、文献をもとに市岡さんが自身の解釈で作り上げた一皿。ジュラでよく使う鯉や、ベーコン、マッシュルームを、しっとりと赤ワインで煮込んでいる。副菜の酸味やハーブの香りが相まって、心地よく“丸い”味わいに

「フランス料理には“丸い料理”という言葉があり、口の中で一つになる、バランスのとれた料理が良いとする考え方があります。これは長く師として仰いできたコルビさんから学んだ、私のベースとなっているスタイルです。調和があってこそ、心地よい、安心できる味わいになるんです」。

【マ プール特製パフェ】
テーブルに運ばれた瞬間思わず歓声を上げてしまう「マ プール」の名物パフェ。季節のフルーツを使ったパフェの上には、フランスのクラシックなケーキが乗せられる。かつて4年間シェフパティシエを務めた市岡さんならではの細やかで贅沢なデザート。写真はチェリーと、女性の帽子に見立てたケーキ「シャルロット」のパフェ

お客様に「初めて食べる料理なのに、懐かしい」とおっしゃっていただけるのがいちばん嬉しいという市岡さん。「マ プール」でジュラのワインと共に、今までにないフランス料理を味わってみて。

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Restaurant Ma Poule

Restaurant Ma Poule

レストラン マ プール

エリア
東大前
ジャンル
フランス料理
営業時間[昼]
日12:00~15:00(13:00LO)
営業時間[夜]
18:00~23:00(21:00LO)、土日祝18:00~22:00(20:00LO)
定休日
月曜日 ※ほか月一回、不定休日あり

Ma Pouleマ プール

営業時間[昼]:日 12:00〜15:00(13:00LO)
営業時間[夜]:火〜金 18:00〜23:00(21:00LO)、土・日 18:00〜22:00(20:00LO)
定休日:月

住所:
東京都文京区西片2・19・17
北川ビル
TEL:
03-3868-2518
URL:
http://ma-poule.tokyo/

文:河崎志乃 写真:松園多聞

更新: 2018年8月24日

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