[Tokyo Elite Restaurant]
Sublime

加藤順一

文:河崎志乃 写真:松園多聞

2015年10月新橋にオープンし、ニューノルディック キュイジーヌの新鋭として大きな注目を集めた「スブリム」。そして2017年8月に麻布十番へ移転したのと時を同じくして、シェフである加藤順一さんの料理に対する考え方は大きく変わったといいます。

加藤順一(かとう・じゅんいち)

1982年静岡県生まれ。大阪・辻調理師専門学校からフランス校に進学し、帰国後「レストランタテルヨシノ 芝」(芝パークホテル内、2015年に閉店)、「オテル・ド・ヨシノ」(和歌山県)で修業。2009年に再び渡仏し「アストランス」、2012年からデンマーク「A.O.C」「マーシャル」(ホテル・ダングルテール内)を経て、2015年の「スブリム」オープンとともにシェフに就任。新橋から麻布十番に移転した現在も同店で腕をふるう。

多くの人で賑わう麻布十番の中心から少し離れた、閑静なエリアに店を構える「スブリム」。2017年8月に新橋から移転した新たな「スブリム」は、大きなオープンキッチンが印象的な、開放的で落ち着きのある空間です。席につきテーブルに置かれたメニューに目を落とせば、そこに書かれているのはすべて日本の地名と日本の食材。北欧のイメージが強かったスブリムとは違うまた新たな料理が楽しめそうだという期待に胸がふくらみます。

この「スブリム」でシェフを務めるのは、加藤順一さん。フランス料理から北欧のニューノルディック キュイジーヌを学び、新橋での「スブリム」オープンから、麻布十番の新たな「スブリム」へ。その道のりの中で、加藤さんは自らのスタイルを見つめ、磨き上げてきました。

高校生の頃からお菓子づくりが好きだったこともあり、大阪・辻調理師専門学校に入学したという加藤さん。一段と華やかに見えたフランス料理の世界に魅せられ、1年後には渡仏しフランス校ヘ進みました。

「フランスでは皆14歳から料理の道に入るんですよ。私が20歳でフランス校に進みフランス料理を学びはじめた時には、周りの同年のフランス人たちはその時点で6年先輩なんです。アプランティエという研修制度も整っていて、すでに皆、豊富に経験を積み技術も高い。そんな環境に置かれて自分もフランス料理をしっかりと学びたいという思いが一段と強くなりましたし、もっと頑張らなければと気が引き締まる思いでした。三ツ星レストランへも食事に行き、最高峰の料理や空間、サービスを学ぶこともできました。またいつかフランスへ戻ってきて、本場でフランス料理を学びたいと思いました」。

そんな加藤さんが帰国し最初の修業先として働いたのが、吉野建さんの「レストラン タテルヨシノ 芝」。フランスで活躍する日本人シェフはまだほとんどいなかった当時、パリ「ステラマリス」のシェフとして後にミシュランの星を獲得するほどまでに活躍した吉野さん。その名を冠した日本のレストラン第1号店「レストラン タテルヨシノ 芝」で、加藤さんは吉野さんのもとフランス料理の基礎を学びました。さらに和歌山「オテル・ド・ヨシノ」を経て、再びフランスへ。パリの三ツ星レストラン「アストランス」で、世界のトップシェフとして名高いパスカル・バルボさんに師事しました。この「アストランス」で加藤さんが学んだのは、肉の火入れ。

「バルボシェフは、レアやミディアムという単なる焼き上がりの違いだけではなく、どんな肉にどんなアプローチで、どう仕上げていきたいかという道順を体系的に考えて調理法を決めていきます。強火で焼いてぎゅっと噛みごたえよくしたいのか、低温で火を入れて柔らかくしっとりさせたいのか。脂を落として焼くのか脂を残すように焼くのか。脂の香りをつけるのか脂の香りは要らないのか。どんな仕上がりを望むかによって、そのための方法を細かくチャートにしているんです。ここで学んだ肉の火入れに対する考え方は、今の私の料理にも活かされていると思います」。

「アストランス」の後、加藤さんが修業先に選んだのがデンマーク。「ノーマ」が掲げた新北欧料理の考え方のもとフランス料理とは違う自国の新しい料理を確立しようという精神を、二ツ星レストラン「AOC(エーオーシー)」などで学びました。その後帰国し、「スブリム」のオープンとともにシェフに就任。当時は珍しかった北欧の食材も多く使い、北欧スタイルを意識した料理で大きな話題を呼びました。しかし、ここで加藤さんに一つの悩みが生まれたといいます。

「愛媛 甲烏賊」
甲烏賊とメカブ、ワサビの和え物にカブを合わせた冷前菜。ソースは牛乳からバターを作るときにとれるバターミルクと、ハーブオイルを合わせたもの。北海道の山ワサビのアイスパウダーとカブにあしらったハーブで、春を待つ雪解けの季節を表現

「海外の修業先で共に働いた仲間たちから、『どうして加藤は日本人なのに、北欧の料理をやっているんだ』と言われたんです。『せっかく素晴らしい食材に恵まれた日本にいるのに』と。思い返せば、北欧で学んだのも地産地消という考え方。日本人として、私らしい料理とは何かということを考えるようになりました」。

日本人として、改めて自分の料理を見直したという加藤さん。海外の仲間たちに指摘されたように、たしかに日本には発酵など独自の技術もあるし、島国ならではのユニークな食材もたくさんある。日本人としては当たり前のことで気づかないけれど、世界から見れば、日本ならではの食材を使わないのはもったいないことなのだと気づかされたといいます。それからは、使う食材は極力日本のものに。今後は調味料も含めて100%日本産のものを使えることが理想だそうです。

「フランス料理の食材はずっと扱ってきましたので慣れていますが、日本の食材についてはまだまだ勉強中です。例えば鮎やハモなど、フランス料理では使わない日本の魚の繊細な味わいを、どうやって日本料理以上に引き立てるか。魚や野菜、そして肉と、日本各地の生産者の方々のもとを訪れながら、どうやったらその食材の魅力を最大限に引き出せるか、日々考えています」。

「静岡 長谷川農園のマッシュルーム」
マッシュルームの生のスライス、角切りのソテー、3週間かけて発酵させたスープを合わせた、「スブリム」のスペシャリテ。マッシュルームという1つの食材を3つの時間軸で調理して合わせることで、その魅力を最大限に引き出している

そう語る加藤さんのこれまでの道のりを感じられるのが、今回ご紹介する3つの料理。まず「静岡 長谷川農園のマッシュルーム」は、長谷川農園で出合ったマッシュルームの魅力を最大限に引き立てるために、生のスライス、角切りのソテー、3週間ほど発酵させて作るスープと、マッシュルームというひとつの食材を異なる時間をかけた3つの方法で調理し合わせたひと皿。3つを繋ぐためだけにできるだけ食感をなくし存在感をなくした温泉たまご以外はすべてマッシュルームというシンプルさながら、複雑な調理から生まれる奥深さで食材のポテンシャルを最大限に引き出した「スブリム」のスペシャリテです。「愛媛 甲烏賊」も、甲烏賊・メカブ・ワサビという日本ならではの食材が主役。さらにそこに注がれるソースや春の雪解けをイメージしたデザインには、デンマークで学んだ最先端の盛り付けやプレゼンテーションの技術が活かされています。

「北海道白糠町 酒井さんの仔羊」
北海道・ボーヤファームの仔羊を使ったメイン料理。骨付の背肉に低温のオーブンでやさしく火を入れ、最後にフライパンで余分な脂を落とすように仕上げている。仔羊のバラ肉を使ったスパイシーなカイエットを味わいのアクセントに

「北海道白糠町 酒井さんの仔羊」は、春に最もおいしい時期を迎えるという仔羊を、「アストランス」の考え方をもとに繊細に調理。仔羊の背肉を骨付きの状態でオーブンに入れて低温でしっとりと焼き上げ、最後にフライパンで脂の部分のみ火を入れ、余分な脂を落として仕上げます。ソースは仔羊の骨からとった出汁で仕上げたシンプルなもの。肉の繊維が心地よく切れていく噛み応えと共に、ほどよく肉汁があふれしっとりとした仔羊のフレッシュな味わいを楽しむことができます。

「スブリム」で提供されるコースは全13品前後。3品のスナックに始まり、冷前菜では爽やかな酸味やハーブの香り・風味、美しい盛り付けなど、味わいも見た目も楽しいものに。温前菜からメインでは一皿の中の食材の数を抑え、シンプルに食材の魅力を引き出していきます。このコースの中で加藤さんは「アストランス」で学んだ火入れの技術と、新北欧料理の美しさと精神、そして日本人としての食材への愛情を盛り込み、自身ならではの料理の世界を展開していきます。

「おいしいものとおいしいものを足してさらにおいしい料理を作っていくというフランス料理を長く学んできましたので、食材をシンプルに料理するのは難しいと感じることもあります。ですが、せっかく日本で出合った素晴らしい食材を使うのですから、苦労してもその魅力をシンプルに最大限に伝えたいですね」という加藤さん。そんな現在の加藤さんが生み出す料理を、麻布十番の「スブリム」で味わいましょう。

Sublimeスブリム

[昼]:12:00〜13:00LO
[夜]:18:00〜20:00LO(日 19:30L)

住所:
東京都港区 東麻布3丁目3−9
TEL:
03-5570-9888
URL:
https://www.sublime.tokyo

文:河崎志乃 写真:松園多聞

更新: 2018年7月9日

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