[Tokyo Elite Restaurant]
JASMINE憶江南

山口祐介

文:河崎志乃 写真:松園多聞

供される料理の数々はこの上なく洗練されていながらも、口にすれば母の手料理のような温かさ。山口さんが少年の頃に抱いた中国・江南の地への憧れと愛情は料理人としての道の中で磨き上げられ、その料理はどこか懐かしく、食べる者の心を温かく満たします

山口祐介(やまぐち・ゆうすけ)

1980年東京都生まれ。調理師専門学校を卒業後、都内のレストランを数軒経た後に、「日中友好会館」で中国語を学びながら会館内のレストランで修業。その後「グランドハイアット東京」の「チャイナルーム」に2003年のオープン時より8年間在籍。上海、杭州、北京、香港などの系列のホテルでも研鑽を積む。2011年3月より「中華香彩ジャスミン」総料理長を務め、2016年3月、中国・江南地方の郷土料理を中心に提供する「ジャスミン憶江南」をオープン。さらに2017年4月にはGINZA SIXに「ジャスミン 和心漢菜」をオープン。

中国料理への憧憬に満ちた少年時代

「よだれ鶏」で知られる中国料理店「ジャスミン」の姉妹店として、2016年に目黒区東山にオープンした一軒家レストラン「ジャスミン憶江南(イージャンナン)」。中国の詩人 白居易が中国の江南(上海や杭州など)の地を讃えた漢詩の題名「憶江南」を冠した店名の通り、この店で供されるのは江南地方を中心とする郷土料理。ゆったりとした贅沢な設えの中でいただく料理は、どれも美しく洗練されていながら、優しく、どこか懐かしい温かみが感じられます。それらの料理を生み出すのが、「ジャスミン」を人気店に押し上げた総料理長の山口祐介さん。「ジャスミン憶江南」では江南地方へ寄せる自身の想いを、一皿一皿の料理に込め紡いでいます。

【JASMINE名物“よだれ鶏” 蒸し鶏の香りラー油】
20歳の時に北京で「口水鶏」を食べてから、約10年かけて試作を続け作り上げた「ジャスミン」の名物料理。味と香りはもちろん、仕上げにかける自家製ラー油の色にもこだわり、香辛料の配合に試行錯誤を重ねた自慢の逸品

「小学生の頃に人生で初めて抱いた夢は、ラーメン屋さんになることだったんですよ。私の実家は外の店へ食事に出かける習慣が全くなくて、たまに祖父に連れられて行くラーメン屋さんが夢のように楽しかったんです。そこで食べるチャーシュー麺が大好きで。店主が麺の湯きりをする様子やスープ鍋の中身を観察して、自分で材料を調達して家で作っていました」。そんな山口さんがさらに料理の世界に魅せられたのが、中学生の頃に横浜中華街で初めて中国料理を食べたとき。「初めて見る豚の角煮が、好物のチャーシューの大きな塊に見えて、注文してみたんです。いざ食べてみると脂身が口の中でとろけて、あまりの美味しさに悶絶しました」。

その後すぐに図書館へ行って中国料理の本を漁ったという山口さん。そこで出会ったのが程一彦(ていかずひこ)さんの料理本で、中華街で食べた豚の角煮が「東坡肉(トンポーロウ)」というのだということを知ったのだそうです。

「そこには『東坡肉を食べずして中国料理を語るなかれ』と書いてあったんです。あ!僕は食べたぞ! とすっかり盛り上がって。さっそくそこに載っていたレシピで東坡肉をつくってみました。これが美味しくできて、家族にも褒められてすっかり中国料理にハマってしまったんです」。

それからいてもたってもいられず、月に1度は中学生ながら一人で横浜中華街に通ったという山口さん。そして当時あった「頂好(ティンハオ)」という店の勝手口から調理場の様子を眺めていたところ、中に招き入れられ、可愛がられるようになったのだとか。料理人になりたいという山口少年を調理場に入れ、食事もご馳走してくれたというこの店で、中国料理へ寄せる思いはより大きく膨らんでいきました。

経験と出会いから学んだ江南料理の魅力

中学校を卒業後、調理師専門学校を経て「赤坂璃宮」へ。そして、より深く中国のことを学びたいと飯田橋にある「日中友好会館」の中国語学校に通いながら、同じ会館内のレストランで働きました。

【江南地方の点心盛り合わせ】
豚肉ともち米のおこわを手作りの皮で包んだ上海風「もち米シュウマイ」、大根の細切りと金華ハムをパイ生地で包んで揚げた「大根パイ」、豚肉の肉汁たっぷりの上海風「焼き餃子」。どれも細やかで、食べ応えある盛り合わせ

「日中友好会館には中国人のための宿泊施設などもありましたから、ここのレストランは中国人のお客さまが多かったんです。店にはいつも中国人が飲む白酒(パイチュウ)という蒸留酒の香りが漂っていました。現地の人はこんなお酒を飲むんだ、こんな料理を食べるんだ、朝食はこんな感じなんだと、多くのことを学びました」。
さらに北京への短期留学も経験。このときに足を運んだ人気店で「口水鶏(コウシュイチー)」を食べたことが、後の「ジャスミン」の人気メニュー「よだれ鶏」が生まれるきっかけにもなりました。

【旬の魚の煎り焼き 自家製発酵白菜のソース】
程よく寝かせて甘みを引き出し焼き上げた旬の魚に、白菜を発酵させた酸味・塩味のある北京の漬物「酸菜」を使ったソースを合わせた一皿。山口さんならではのアレンジを加えながらも、「酸菜」で中国料理らしさを表現

「日中友好会館」で約2年の修業を積んだ後、「頂好」の紹介で六本木ヒルズにオープンした「グランドハイアット東京」の中国料理レストラン「チャイナルーム」へ。約8年間在籍し、北京や上海、杭州などの系列のホテルへも研修で訪問。さらに、それまでに身につけた語学力を活かして、香港や中国から招かれるゲストシェフのアテンドも担当しました。その中でも最も衝撃的だったと山口さんが語るのが、当時「ハイアット リージェンシー 杭州」のレストラン「湖浜28(フービン28)」のシェフを務めていた傅月良(フ・ユエリャン)さんとの出会いです。

「傅さんは、現地・杭州の料理人から外資系ホテルであるハイアット リージェンシーの副総料理長、のちにホテルのアジアグループの総料理長になるという異例の出世を果たし、『湖浜28』を『アジアのベストレストラン50』にもランクインさせた人物です。彼は誰よりもストイックで仕込みにも妥協がなく、地元の伝統料理に敬意とプライドを持ちながらも、現代の調理技術を使ってよりおいしく調理するバランス感覚も持っていました。例えば丸鶏のお腹に詰め物をして粘土で包み、焚き火の下で焼く「乞食鶏」という杭州の料理があるのですが、傅さんはこれをコンベクションオーブンで一度単位で温度を調節して焼き上げます。さらに鶏のお腹に豚の煮こごりも詰めて焼くことで、小籠包のようにジューシーに仕上げるんですよ」。

もともと杭州発祥の「東坡肉」がきっかけで料理の道に入った山口さん。さらに傅さんと出会ったことで、杭州すなわち江南地方の料理により深く魅せられていきました。

江南の「おいしい」と、その楽しみ方を伝える

江南は、上海、杭州、紹興など長江(揚子江)の南側の地域で、四季があり、揚子江の水の恵みにより食材が豊かで、稲作も盛ん。「魚米之郷」とも称され、米から作られる紹興酒や、お酢も種類が豊富。「東坡肉」などの「紅焼(ホンシャオ、醤油煮込みのこと)」もこの地域を代表する料理です。

【獅子頭 大きな肉団子 伝統的な上海醤油煮込み】
江南を代表する名物料理のひとつ。ひき肉ではなく細かく粒状に切った豚肉を使うことで、口の中でほろほろと崩れる食感に仕上げた肉団子。醤油とザラメ、紹興酒だけでシンプルに煮詰めて味わい深く仕上げている

「私が作る江南料理はスパイスもあまり使わず、シンプルでやさしい味付けです。大きな肉団子の醤油煮込み『獅子頭』も、使っている調味料は醤油とザラメ、紹興酒だけ。塩だけで味付けする料理も数多くあります。私は東坡肉や傅さんとの出会いで江南の料理に惚れ込みましたから、アレンジは加えすぎず、江南料理らしい料理を作りたいと思っています。そのおかげでこの店には中国のお客さまもたくさんいらっしゃいますし、現地よりおいしいと言っていただくこともあるんですよ。何よりも嬉しい言葉ですね」。

最初に広尾の「ジャスミン」をオープンしたときから、「おいしい」にとことんこだわっているという山口さん。食材の切り方から下味のつけ方、火の入れ方など調理の一つひとつのプロセスを突き詰め、一皿一皿をおいしく仕上げていきます。また、料理そのものはもちろん、その楽しみ方も伝えていきたいといいます。

【江南地方の特色前菜八種】
上海の家庭料理や精進料理などが盛り込まれた、紹興酒に合う前菜八種。江南の酒席を再現した贅沢な品揃え。現地ではお酒を飲みながら甘いものも食べる習慣があることから、パリパリの飴がかかった「棗のもち米詰め」も

「江南地方では紹興酒をよく飲むのですが、居酒屋というものはありませんから、飲むときはレストランでお酒のアテになる前菜をテーブルにたくさん並べて、少しずつつまみながらゆっくり飲むんです。そのスタイルを再現したくて、一部のコースで『江南地方の特色前菜八種』をご提供しています。これには上海の精進料理で有名な、干し椎茸で『田ウナギ』を模したものや、甘く仕上げた『棗のもち米詰め』など、現地の食文化を伝える料理がふんだんに盛り込まれているんですよ」。

幼い頃からの中国料理への憧れと愛情が込められた山口さんの料理は、どれもやさしく沁みわたる味わいで、細やかなレストランの料理でありながら、まるで自宅に招き入れられ手料理をふるまわれているかのような温かさがあります。豊富に揃う紹興酒を飲み比べながら、それに合わせてじっくりと料理を楽しむのもおすすめ。ひとつひとつの食材の切り方や下ごしらえが生む食感、温度、繊細な仕上げの中にも愛情が感じられる「ジャスミン憶江南」の料理を味わいながら、中国・江南の地に思いを馳せることにしましょう。

乾杯にはおすすめの「Damia Cava Brut」のロゼをぜひ

こだわりの中国茶は様々な種類をご用意

JASMINE憶江南ジャスミン イージャンナン

[昼]:11:30〜15:00(14:30LO)
[夜]:18:00〜23:00(22:00LO)

住所:
東京都目黒区東山1丁目22−3
TEL:
03-6303-1927
URL:
http://nakameguro.jasmine310.com/

文:河崎志乃 写真:松園多聞

更新: 2018年9月14日

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