[Tokyo Elite Restaurant]
Margotto e Baciare

加山順平

文:戸田千文 写真:竹内洋平

宝箱を開けると、芳醇で色っぽい香りとともに登場する大ぶりのトリュフたち。香りも形も、大きさもそれぞれ異なる中から、好みのものを一つ選んだら今日の食事がスタートします。そんな演出にワクワクする遊び心満載の「マルゴット・エ・バッチャーレ」は、父の背中を見て育った兄弟2人がシェフを務めています。

加山順平(かやま・じゅんぺい)

1986年広島県生まれ。専門学校を卒業後、銀座「レディタン ザ・トトキ」(現在はGINZA TOTOKI)へ。さらに浅草「オマージュ」で修業した後に、神田「ヴィノシティ」のシェフに就任。27歳の時にフランスへ渡りパリの1ツ星「MaSa」などで研鑽を積み、2016年「マルゴット・エ・バッチャーレ」のシェフに就任。

“うまいものや”の両親の影響で、兄弟そろって料理人を目指す

「親には公務員になってくれって言われていたんです(笑)」。そう話すのはマルゴット・エ・バッチャーレでシェフを務める加山順平さん。2014年のオープン時から同店で腕を振るう兄の賢太さんとともに、2016年から2人で厨房を任されています。

実家は広島市にある小さなレストラン。フレンチレストランとはいいながらも、カレーやお造り、タンシチューとおいしいものなら何でも出すというその店を“うまいものや”と順平さんは表現します。「シェフである父が、『うまいものなら何でもいい』っていろんなメニューをお客さまに出すんです。母も料理が上手で、その環境で育ったから当たり前のように料理人を目指したんだと思います」。店の経営で忙しい両親は帰宅が遅いこともあり、見よう見まねで料理を作ったこともあったと言います。「一番よく作ったのはハンバーグ。自信があるものは、両親にも食べてもらって、褒めてもらいました」

しかし、明るくコミュニケーション上手な兄の賢太さんに比べて、内気な性格の順平さん。そんな寡黙な姿を見た両親は、「料理人は料理を作るだけじゃない。お客さんと会話をして、コミュニケーションを取りながらでないと難しい」と公務員をすすめたとか。レストランを経営し、その大変さを知っているからこその言葉でした。そこで順平さんは地元の大学を受験、見事合格を勝ち取りますが、一方で心のもやもやは晴れないまま。結局、土壇場で徳島にある平成調理師専門学校への入学を決め、料理の世界への扉を開いたのでした。

卒業後は、銀座レカンで総料理長を務めていた十時亨さんがオーナーシェフを務めるレストラン「レディタン ザ・トトキ」(現在はGINZA TOTOKI)で働き始めます。当時、オープンキッチンにカウンター席が中心の店内は、広島にある両親の店と雰囲気が似ていたといいます。

「両親からも、兄からも、とにかくものすごく大変な仕事と聞いて心の準備はしていたつもりでしたが、それ以上のものがありましたね」。厨房では先輩から叱られ、怒鳴られることも多く、精神的にも辛い日々が続いたといいます。また当時学校を出たばかりだった順平さんは、十時シェフが作り出すフレンチに戸惑いを感じたそう。

「今となっては素晴らしい料理だったと分かるんです。十時シェフが作り出す料理は、とても良い食材を使って素材の味を引き出すとてもシンプルなものでした。今はそういったフレンチも多くありますが、それが当時はとても珍しかったんです。専門学校で習ったフランス料理って、華やかでいろんな食材が盛り込まれたものだったから、自分が思っていたフレンチとは違うって」

結局、1年半ほどでレディタン ザ・トトキを退職。その後、浅草にある「オマージュ」へ就職しました。それまでの仕事は洗い物など雑用がメイン。作るのが許されているのはパンのみでしたが、オマージュではいきなり料理の仕込みをすべて任されることになったのです。「何も分からなかったから、とても大変だったけれど、そのときに料理を作る楽しさとか喜びを感じることができました。オマージュの荒井シェフは見て学べというタイプで。だから本で調べて実践して、また怒られて(笑)。でも、すごく仕事が楽しかったんです」

【トリュフのための目玉焼きトースト】
選んだトリュフを好きなだけ、たっぷりと乗せてくれる贅沢な目玉焼きトースト。トリュフの香りに負けないほど濃厚な栃木産の磨宝卵を使う。とろりと溢れる黄身をしっかり絡めていただこう

忙しい日々ながらも、料理の楽しさを再認識し、充実した日々が過ぎていきます。オマージュを去ったあと、神田にあるヴィノシティでは24歳の若さでシェフを務めることに。周りからは「24歳でシェフは早過ぎる」という声もあり、もちろん順平さんにもその思いはありました。「でも、やってみたいって気持ちが大きかった。これまでは、誰かの下にいて働けばいいという気持ちだったけれど、シェフとなればすべての責任を負わないといけない。一方で、お客さまが自分の料理で喜んでくれるという喜びがありました。『美味しい』って言ってもらえたのが、すごく大切な経験だったんです。若い時に経験で来て良かったと思っています」

渡仏しフランスの1ツ星レストランへ 転機は即興で作った「マグロのタルタル」

ヴィノシティでシェフとして働きながら、資金を貯めた順平さんは、27歳でフランスへ旅立ちます。働き始めたのはパリの一ツ星レストラン「MaSa」。日本ではシェフまで務めた順平さんですが、ここではアプランティと呼ばれる見習いからのスタートでした。野菜の皮をむいたり、掃除をしたり…。雑用をこなしながら、2週間ほどが経ったころ転機が訪れます。「その日は厨房にある冷蔵庫にマグロが置いてありました。営業の時間になると、シェフがお客さんと一緒にやってきて『お前、日本人だからこのマグロで何か作れ』って、いきなり(笑)」

緊張しながらも、ここがチャンスと思った順平さん。即興でマグロのタルタルを作り上げました。一口食べたお客さんから「おいしい」と声が上がり、これがきっかけに魚料理を任せてもらえることに。半年後、一度MaSaを去りますが、その後、戻ってきてからは副料理長に就任しました。「言葉がしっかり分かるわけではなかったけれど、シェフとコミュニケーションを取りながら一つの料理を完成させていくのは楽しかったですね」

フランスで料理に深くかかわるようになると、日本との違いを感じることもありました。「日本人は“うま味”があるものを好みます。でもフランス人は料理の中に酸っぱさのような、もっと直接的な刺激を求めている気がします。それにフランスでは料理は芸術。料理人はアーティストのようなもので、料理の見た目をすごく重視するんです。調理技術は日本人だってフランス人に負けないくらい持っているって思いますが、アーティスティックなセンスだったり、想像力はフランスの人のほうが長けている気がします。突拍子のないことをする人も多い。食材の合わせ方など、その発想力はとても勉強になりました」

フランスでの経験は2年ほど。その後、2016年にはベルギーのレストランで新たに働くことが決まったものの、同年ブリュッセルで連続爆破テロが発生。労働ビザの申請が通らず、兄の賢太さんがシェフを務めるマルゴット・エ・バッチャーレへ。“ツイン・シェフ”体制となり、兄弟2人で厨房の指揮を執ることとなったのです。

兄とともに“ツイン・シェフ”として厨房に立つ

マルゴット・エ・バッチャーレは、トリュフを丸ごと楽しめる遊び心たっぷりのレストラン。席に着くと、まずは宝箱の中から自分だけのトリュフを選びます。フェロモンの香りに近いといわれるトリュフは、醸し出す香りは個体によりそれぞれ。蓋を開けると、ぶわっとあふれ出るように芳醇で濃厚な香りが鼻に届きますが、一つひとつ手に取って香りを嗅いでみると、スパイシーなものやアーモンドのように香ばしいもの、土っぽいものと個性が感じられます。この中から自分のお気に入りを選んで、たっぷりと味わうのです。

順平さんの兄、賢太さんは、2014年のオープン以来、ここで腕を振るっています。「兄はお客さんとのコミュニケーションも大好きで、厨房で黙々と料理を作るのが好きな僕とは真逆の性格です」と話す順平さん。お客さんとの距離の取り方はもちろん、賢太さんからはほかにも学ぶことが多いそう。「兄の仕事は本当に基礎がしっかりしています。僕は独学で学んだことが多いので、その仕事を見て勉強になることが多いです。もちろん、イラッとすることもあるけれど、兄弟だからこそ言葉無しで理解できる事も多いので、喧嘩になることは殆どありません」

今では兄弟でディスカッションをして、二人で料理を生み出すことがほとんど。その中で、順平さんが手掛けることが多いのがデザートです。順平さんは、コースの最後を締めくくる料理として、デザートをとても大切にしています。「重過ぎず、軽過ぎず、かつ印象に残るものを作ろうと心がけています。見た目も味も、皿の中でメリハリをつけて、最高の食事の最後にふさわしい一皿を。香りも大切にしています」

そんな順平さんに気になる食材を尋ねると、やはり香りにフォーカスした答えが返ってきました。まずは高知県で作られる土佐ベルガモットという柑橘。「小ぶりでとても香りが良くて、デザートにこれからぜひ使っていきたいんです」。さらに現在も使用している広島県にある梶谷農園のハーブも、料理には欠かせません。フランスでたくさんのハーブを見た順平さんですが、日本では取り扱いがないものも多くあったそう。そんな希少なハーブを育て、販売しているのが梶谷農園でした。「香りが本当に素晴らしくて、料理もデザートも幅が広がります」と話す順平さん。毎週、届くのを楽しみにしています。

【紅玉のデクリネゾン】
デクリネゾンとは一つの食材を多彩な調理方法で表現して味わう料理。果実感溢れるソルベやカルバドス入りの大人味のムース、キャラメリゼしたテリーヌなど、どれも紅玉の魅力をこれでもかと引き出している

また今後のことを尋ねると、少し間を置いて答えが返ってきました。

「僕もずっと考えているんです…。なんだかんだいって、僕は父のような職人になりたいと思っています。コミュニケーション能力が高い料理人が求められていて、もちろんそれはお店を続けるために大切なことなんですが、料理人は職人でないといけない。もっと料理を作り込める料理人になりたいとは思っています。正直今は模索中ですが、今は毎日来ていただけるお客様に最高の料理を作ることに集中したいと思っています」

「今は目の前のことが大切」話す若きシェフは、今日も兄とともに厨房に立ちます。厨房で見せる息の合ったコンビプレーは見事なもの。真逆の性格の二人ですが、そこは“うまいものや”の両親に育てられた兄弟。「おいしい」の味覚の感度はブレがありません。同じ料理人である父の背中を見て育った二人の生み出す、遊び心溢れる料理の数々をぜひ味わってみてはいかがでしょう。

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Margotto e Baciare

Margotto e Baciare

マルゴット エ バッチャーレ

エリア
広尾
ジャンル
フランス料理
営業時間[夜]
18:00~(22:30LO)、土・祝前18:00~(21:30LO)
定休日
日曜日、祝日、第1土曜日

Margotto e Baciareマルゴット・エ・バッチャーレ

18:00~24:00(L.O.22:30)
土曜日/第1金曜日18:00~23:00(L.O.21:30)

住所:
東京都港区西麻布4-2-6
菱和パレス 1F
TEL:
050-5570-6004
定休日:
日曜日、祝日、第1土曜日
URL:
http://margotto.jp

文:戸田千文 写真:竹内洋平

更新: 2018年1月4日

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