[Tokyo Elite Restaurant]
AMBIGRAM

Hirohisa izawa

伊沢浩久

文:戸田千文 写真:平方秀樹

広尾駅から歩いて5分の場所にあるイタリアンレストラン「AMBIGRAM(アンビグラム)」。シェフの伊沢浩久さんが、イタリアのフリウリ地方で出会ったママの味をきっかけに、“トラディショナル”とリストランテの技を合わせた手間暇かけた料理が味わえます。

伊沢浩久(いざわ・ひろひさ)

1980年栃木県生まれ。銀座「エノテーカ・ピンキオーリ」などを経て26歳でイタリアへ。フリウリ、ピエモンテなどで、星付きのリストランテからトラットリアまで、様々なレストランで修業。帰国後は新丸ビル「イル カランドリーノ」、銀座「ブルガリ イル リストランテ」などを経て、2012年に「アンビグラム」をオープン。

食べることが好き 中学生のころコックになることを決めた

広尾駅から歩いて5分の場所にある「AMBIGRAM」。シェフ伊沢浩久さんは、双子の弟でパティシエの和明さん、トラットリアで経験を積んだサービスマンの米津真寛さんとともに、2012年にここをオープンしました。ありそうであまり聞かないシェフとパティシエという組み合わせの双子の兄弟。ここにたどり着いたのは、生まれ育った家庭が影響しているようです。

「もともと母親の家系が食べることが好きでした。その影響を受けて僕もやっぱり食べることが好きで、中学生のころにはコックになろうと考えていました」。

そう話すシェフの伊沢さんですが、実のところ子どもの時に料理を作ったり手伝ったりという経験はあまりなかったといいます。「でも、学校の家庭科の授業でできたカップケーキを褒めてもらえたことがすごく嬉しかったというのは覚えているんです。小さなきっかけかな」

経験を生かしエノテーカ・ピンキオーリでシェフパティシエに

中学のころから料理人を目指していた伊沢さん。高校卒業後は、「親元を離れたい」という思いから生まれ育った栃木に近い東京ではなく、あえて大阪の辻調理師専門学校へ通うことを決めます。卒業後は、19歳で芦屋にあるリストランテ「ベリーニ」や練馬区石神井にあった「イルカナーレ(現在は閉店)」などを経たのち、なんと半年をケーキ屋で過ごします。

「ちょうど先輩が実家のケーキ屋を継ぐタイミングで、声を掛けてもらいました。専門分野以外の経験は学校を卒業するとなかなかできないので、ケーキ作りについて一からしっかりと教えてもらえました」。

レストランにはコック志望は多いものの、パティシエは不足しがち。この経験から次に努めることになる銀座の「エノテーカ・ピンキオーリ」では、なんとパティシエを任されることになったのです。「パティシエが足りないときに『ちょうどいいやつが来た!』ってなっちゃって…」と、思わず苦笑いを浮かべる伊沢さん。料理人希望で就職したにも関わらず、3カ月後にはなんとシェフパティシエに就任しました。

伊沢さんがようやくコックとして厨房に入ることができたのは、1年半が過ぎたころです。「10年同じところにいた人もいるくらいに、セクション異動が本当に少ないレストランだったんです。だから短期間での異動は本当に珍しかったんですけど。料理人としてやりたいと僕があまりにしつこくいうものだから(笑)」。

自分にはない“説得力”を求めイタリアへ渡る

そんな伊沢さんが、イタリアに渡ることを考え始めたのもこのころ。厨房で仕事をしていくうちに、イタリアで経験を積んだ料理人との差を感じたことがきっかけでした。「当時働いていたレストランには、イタリアから帰ってきた人が半分くらいいたんです。その人たちは説得力が違う。例えば同じラザニアを作った時に、その人は一層、卵を入れていました。ボローニャ地方のある地域で作られているものだったのですが、話を聞いて、食べて、卵が入っていることに納得するんです。当時の僕には、その差を埋めることができない。イタリアに行かないと分からないって思ったんです」

さらに伊沢さんの背中を押したのが、一緒に働いていたイタリア人のコックでした。「会話をしていく中で、イタリアに興味が出てきたんです。彼は、日本人とは違う感性を持っていましたから」

1年間のイタリア語レッスンを半年で何とか詰め込み、26歳でイタリアへ飛び立ちました。最初に努めたのは、ベネチアからスロベニアへ向かって2時間ほどの場所にあるフリウリにある一ツ星(当時)のレストラン。片言のイタリア語で、挨拶と名前くらいしか伝えることができなかった伊沢さんを、家族経営のこのレストランは温かく迎えてくれました。

「愛情表現が違います。例えば、まかないを僕が作って、それが気に入ると飛んできてくれて『これ、うまいな!』って言いながら抱きしめられたりする。美味しいものを作ったり、いいことをしたりすると、家族みたいに喜んでくれるのが印象的でした」

現地で働くうちに徐々にイタリア語でコミュニケーションが取れるようになり、その後もピエモンテのトラットリアや三ツ星レストランなどで学ぶ伊沢さん。イタリアでの生活の中で、あることに気が付いたといいます。

「イタリアは、料理にとても地方性があるんです。北と南では作られている料理が全然違っていました。たとえば北イタリアではパスタなんてあんまり食べない。そのかわりスープやニョッキはよく食べました。それから郷土愛も強い。『絶対にうちの土地のものが一番うまい』って言い合って、譲らないんです(笑)。その姿を見て、日本人ももう少し、地元愛を表現したらいいのにって思いましたね」

帰国後、銀座ブルガリなどを経て、2012年に弟の和明さん、代表の米津さんとともにオープンしたアンビグラム。まさにその伝統の味=トラディショナルがテーマとなるお店でした。

イタリアで経験した“トラディショナル”を自身の店で

「東京は才能がある人も、競合店も多い。そんな中、自分たちに何ができるだろうって考えた時に、フリウリのお母さんが作ってくれたラザニアを思い出したんです」

フリウリで働いた店のママが作ってくれたラザニアは、これまで伊沢さんが食べていたものよりも緩いベシャメルソースが特徴でした。「このベシャメルの緩さが軽さ。だから美味しいのよ」。そのママの言葉通り、緩さがないベシャメルソースはこってりと重たく、ラザニアにすると食べきれないことも多いことに気が付きます。

「イタリアの星付きレストランのお母さんの料理って本当においしいんです。星付きの味のベースはここにあるんだなって。それで郷土料理に着目することにしました」

そんなイタリアのママの味にプラスされるのは、伊沢さんがこれまで培ってきたリストランテの技です。三日もかけて作った黄金色のコンソメスープ、手打ちの自家製パスタ…、もっと工程を省くこともできるのに、あえて手間をかけて作り上げる料理は、食材の持ち味を存分に発揮。その味はもちろん、豊かな香りや食感が食事の時間を一層楽しいものにしてくれます。

「トラディショナル100%というよりは、それをベースにひと手間加えたり、アイデアを足したりします。例えばラザニアはあまり手間をかけない料理なんですけど…あえて手間をかける。しかも一番手間がかかる方法で作るんです」。そう笑う伊沢さんですが、その手間暇こそ、多くの人が魅了される味の決め手なのです。

もちろん食材にもこだわりが。ヨーロッパから取り寄せるものもありますが「日本の美味しい食材を見つけることも大事」。そして、日本ならではの食材を使うときにこそ大切にしているのが、イタリアらしさです。

「サンマってイタリアの人は食べないけれど、シチリア料理を原案に、食材にサンマを取り入れることもあります。でも、あくまでイタリア料理。“これ、日本料理じゃない?”と言われないように仕上げていきます。イタリアらしさというのが大前提なんです」

オープン以来人気 パティシエの弟とともに作ったドルチェ

そんな伊沢さんを支えるのが、代表の米津さんと4人のスタッフです。

サービスを担当する米津さんは青山「トラットリア シチリアーナ ドンチッチョ」の出身。アラカルトでカジュアルに利用する人がいる一方、記念日や接待など特別なシーンで訪れる人も多いアンビグラムで、それぞれにあったきめ細やかなサービスを提供し、伊沢さんをサポートします。

パティシエである和明さんは現在、店から独立し、鎌倉にパティスリーカフェを構えています。しかしオープン当初に兄弟2人で生み出したドルチェは健在。それが「レモンクリームのオペラ」です。フランス発祥のオペラですが、アンビグラムでは、イタリアのリキュール・レモンチェロをホワイトチョコと融合させ、爽やかな味に仕上げています。「これはレシピを弟が、構成は僕が考えました。定番で、オープン時から変えていないメニューです」。

また伊沢さんと和明さんは、お互いに情報交換し合うことも。「僕が知らないことで、『これいいよ』っていうものを弟からすすめられたら、すぐに試してみます。好みが似ているから、『ちょっと違うな』って思うことも少ないんです。視野も広がりますね」

それぞれが互いを認め、サポートし合い、心地よい空間を生み出すアンビグラム。まるで家族のようなその姿が持つ温かさは、伊沢さんがフリウリで修業したレストランと同じものかもしれません。

「オープンして5年。まだまだ作りたい料理があるんです。店のシステム上、まだできていないものがあって。だから今後は、おもしろいとおもったものにもっと挑戦していきたいなと思っています。もちろん、二号店も考えていますよ」

そう話す伊沢さんの隣には、開業から共に舵を切る米津さんとスタッフたちが頼もしく並びます。

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AMBIGRAM

AMBIGRAM

アンビグラム

エリア
広尾
ジャンル
イタリア料理
営業時間[昼]
土曜営業 12:00~14:30(LO)
営業時間[夜]
18:00~23:00(LO)
定休日
日、祝日の月曜日

AMBIGRAMアンビグラム

18:00~23:00LO
、土12:00~14:30LOランチ
平日は貸切の場合のみランチ応相談

住所:
東京都港区南麻布4-12-4
プラチナコート広尾 1F
TEL:
03-3449-7722
URL:
http://www.ambigram.co.jp/

更新: 2017年12月18日

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