[Tokyo Elite Restaurant]
Les Saisons

ティエリー・ヴォワザン

文:浅井直子
写真:田村浩章

帝国ホテル 東京のメインダイニングである、フランス料理「レ セゾン」。そのシェフを務めるのは、2005年、フランスから招聘されたティエリー・ヴォワザンさんです。「彼は、日本人以上に日本人。日本が大好きだし、帝国ホテルが大好き。最高ですよ」と、総料理長、田中健一郎さんも目を細めます。おばあちゃんの料理が大好きだった少年が、フランスの三ツ星レストランを経て、日本を代表するホテルへたどりつくまでを伺います。

Thierry Voisin(ティエリー・ヴォワザン)

仏・トゥール出身。1964年生まれ。「シャトー ダルティニ」「ジャンポール デュ ケノワ」を経て、フランスを代表するシャトーレストラン 「ボワイエ レ クレイエール」 (現「レ クレイエール」)にて1989 年よりスーシェフ、1995 年よりシェフを勤め、9 年間ミシュランの3ツ星を維持。2005年、帝国ホテル東京 メインダイニング 「レ セゾン」のシェフに就任。 2011年「農事功労章シュヴァリエ」受章、 2014 年には「農事功労章オフィシエ」受章。

おばあちゃんの料理で育ち、ある日の出来事で料理人への道が決定的に。

「山うずら、きじ、野うさぎ…。料理上手な私の祖母は、ジビエ料理も得意でした」と懐かしそうに話す、「レ セゾン」シェフ、ティエリー・ヴォワザンさん。フランス中部のトゥールにて、3世帯で暮らしていたボワザン家では、日々の食事は、祖母が腕を振るっていました。その影響も少なからずありましたが、ヴォワザンさんの料理人への道を決定づけたのは、10歳の時の出来事です。

「家族で訪れたレストランで、キッチンの中に入らせてもらったとたん、わぁ、なんて素晴らしい場所なんだろう!と感動したのです。その瞬間、自分は料理人になるという直感が働きました」

10歳の時の直感に導かれるまま、15歳で料理学校に入学したヴォワザンさん。学校に通いながら、夏休みの間には見習いとしてレストランでも働き、料理人としてのキャリアもスタートさせます。

「最初はキッチンの雑用係から。キッチンテーブルをきれいに掃除したり、ポテトの皮をむいたり、ムール貝の下処理をしたり。辛かったかって? とんでもない! 料理の現場に飛びこめて、基本が学べる。自分にとってはとても良い環境でした。当時、15歳かそこらで親元を離れて住み込みで仕事をするということは、貴重な経験でした。シェフもスタッフも可愛がってくれて、今でもみんな覚えてくれているんですよ」

幼い頃からの夢だった料理人になるために、少しでも前に進もうとするヴォワザン少年。そのひたむきな様子は、レストランのスタッフからきっと愛されたに違いありません。晴れて2年で料理学校を卒業すると、いよいよ本格的に料理人への道を歩み始めます。
「トゥールにあるオーベルジュに就職しました。そこのシェフは、第一に、パッションを持ちながら仕事に取組む人でした。ビジネスというより、シェフも、働くスタッフも、みんながアットホームな姿勢が印象的でした。もちろん、料理のこともたくさん学びましたが、人間として、キッチンでどう働くべきか、どうあるべきか、その中で何をすべきなのかということはとても重要です。最初のレストランでそれについて学べたことは、私のキャリアに多大な影響を与えています」

パリでの運命的な出会い。そして、3ツ星レストランのスーシェフへ。

オーベルジュから、「シャトー ダルティニ」など経てパリのレストランへ。22歳の時、2ツ星レストラン「ジャンポール デュ ケノワ」で、ペストリーシェフを1年間務めました。

「それまでペストリーを勉強したことがなかったので、とても勉強になりました。分量をきっちり量るので、ペストリーは数学みたいだと思いました(笑)。今のレストランでは、ペストリーシェフがいますが、私もアイデアを出しながら、話し合って作っています」

料理人としての幅を広げたパリでの生活。さらに待っていたのは、運命的な出会いでした。

「そのレストランに3ツ星レストラン“ボワイエ レ クレイエール”のオーナーシェフ、ジェラール・ボワイエ夫妻が偶然食べに来ていました。そこで初めて二人に会ったのですが、10歳の時にレストランのキッチンを見てピンと来た時のように、また直感が湧いたのです。“この人たちといっしょに働きたい!”と。まるで、ひと目惚れのようでした。自分の人生がまた変わりましたね」

「ジャンポール デュ ケノワ」を出る時にはペストリーシェフのトップの座まで上り詰めたヴォワザンさん。次のレストラン、「ボワイエ レ クレイエール」に入れば、また振り出しからのスタートです。しかし、オーナーシェフ夫妻の人柄に「ひと目惚れ」してしまったヴォワザンさんは、そんなことはお構いなし。ひらすら、コツコツとキャリアを積み重ねていきます。

「数ヶ月後には、前のお店と同じポジションまで上がり、1年後にはスーシェフになりました。そこでは、学校を出て初めて働いたレストランのシェフを思い出すことが多々ありました。学校では学べないチームマネージメント。パッションを持って取り組む仕事への姿勢。みんな共通しています。そして、何と言ってもやはり、ミシュランの星を持っているレストランなので、また今年も星を取らなければならないというプレッシャーがありました。でも、その中に愛情や温かさが流れている。そんな職場でしたね」

トラディショナルなスタイルと、日本の融合がヴォワザン流フレンチ

「ボワイエ レ クレイエール」に15年勤めた後、「レ セゾン」のシェフとしていよいよ来日しますが、その時、師匠であるボワイエ氏は、どのように送り出してくれたのでしょう?

「90年代に、帝国ホテルに滞在したことがあり、“レ セゾン”も利用したことがあったそうです。その時の印象として、日本において、このレストランはとても良いシンボルにもなっていると言っていました。そして、君の性格のデリケートな部分と日本はとてもマッチすると思う。すごくいい機会だよ、と背中を押してくれました。20年程前に父を亡くした自分にとって、ボワイエシェフは、日本に来てからも、1週間に1回、必ず電話で話をする程身近な、父親的な存在です」

そして、2005年。それまで一度も来たことがなかった、未知の国、日本へ、ヴォワザンさんはやってきました。

「帝国ホテルに入る前に、1度、初めて来日する機会がありました。その時、日本は、人と人同士がお互いに尊重し合うだけでなく、物事すべてに対してリスペクトしているという印象を受けました。当時、田中総料理長も同席し挨拶をしましたが、目が合った時にお互いに今まで学んできたものを教え合うことができる、と感じたんです。“あ、ここで自分の新しい家族を作っていくんだ”と、直感しました」

来日した当初は、「ボワイエ レ クレイエール」で培った料理を、半分はフランス、半分は日本の食材で作っていたというヴォワザンさんは、そこから少しずつ、自分が学んできたトラディショナルスタイルを取り入れるようになります。

「トラディショナルは私のルーツです。でも、伝統的なフランス料理の中に、どこか日本らしさや、日本のフィロソフィーを表現するように心がけています。ここで私が考える日本らしさとは、素材の良さを生かすところ。そして、日本料理の出汁のような、エレガントさ、味の深み。トラディショナルが私の根だとしたら、そこから分かれた枝葉には、日本らしさを取り入れた、エレガントかつ、モダンな実がなる。そんなイメージです」

「パリジャンに見立てて ポワローとじゃがいものフォンダンをチキン風味のジュレの上に 鰹節クリームとキャヴィア添え」は、前菜の一品。鰹節がネギとじゃがいものフォンダンを引き立てます。

そんなヴォワザンさんの考えがぎゅっと凝縮された一皿が、前菜の「パリジャンに見立てて ポワローとじゃがいものフォンダンをチキン風味のジュレの上に 鰹節クリームとキャヴィア添え」。

「伝統的なネギとじゃがいものポタージュに、鰹節のクリームでインパクトを添えています。この料理は日本に来てから数年後に考えたメニュー。自分のフランス料理のクラシックスタイルを取り入れながら、日本の良さを表現している作品のひとつです」

メインの肉料理のひとつ、「豚肉を様々な調理法で」。ひとつひとつの食材に対して深く向き合っているヴォワザンさんらしい一品。同じ豚肉でも技術によって異なる味わいを引き出しています。

日本の食材とフランス料理の手法をバランスよくミックスし、これからも、しっかりクオリティをキープしたいと語ります。
「大体、季節のメニューを変えるごとに5から6品くらい、新しいメニューを作っていますが、クオリティを維持し続けることが最も重要なことなんです」

デザートのひとつ、「赤い果実とシャンパンジュレ エルダーフラワー、ソルベ」。ストロベリーとエルダーフラワーのソルベの中には、フロマージュブランが。グレープフルーツやライムの柑橘系がアクセント。

ヴォワザンさんは、今年4月、『レ セゾンの四季』と題した本を出版。最後に、その記念に作った、ブックマークを取り出しました。そこに刻まれているのは、「根から枝へ。伝統から未来へ」という意味のフランス語。これからもますます、確固たる技術に基づいた日仏の食文化の融合を、私たちにエレガントに提供してくれることでしょう。

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Les Saisons

Les Saisons

レ セゾン

エリア
日比谷
ジャンル
フランス料理
営業時間[昼]
11:30~14:30(LO)
営業時間[夜]
17:30~22:00(LO)
定休日
無休

更新: 2017年12月13日

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