[Tokyo Elite Restaurant]
Remerciements OKAMOTO

岡本英樹

文:佐藤太志 写真:片桐圭

フランスの3つ星を渡り歩き、多くのスターシェフに認められた岡本英樹シェフの卓越したセンスと技術。フレンチの真骨頂ともいえる芳醇なソースが、故郷の北海道から吟味した食材に寄り添います。

岡本英樹(おかもと・ひでき)

1965年、北海道生まれ。1986年より札幌のホテルニューオータニに勤務。1989年より東京・京橋「シェ・イノ」に勤め、井上旭シェフに師事。1995年渡仏。パリの3つ星「ギィー サヴォア」、ロアンヌの3つ星「トロワグロ」、ピュイミロールの3つ星「ミッシェル・トラマ」、南仏グラースでジャック・シボアシェフが手がける2つ星「バスディードゥ・サント・アントワーヌ」などを経て、1999年に帰国。2004年に恵比寿「ドゥ・ロアンヌ」料理長に。2012年9月に「Remerciements OKAMOTO」を開業。

「若い頃は建築家志望でした」と話す岡本シェフ。高校の建築科を卒業後、地元の建築会社に勤務。21歳になった時、人生の進路をあらためて考えるようになったといいます。「真っ先に思い浮かんだのが、子どもの頃、家に遊びに来た友達に『ほら、ヒデキサンド』なんて言って、サンドイッチを作ってあげた時の楽しい思い出。両親が共働きだったので小学校低学年の頃から料理が身近でした。料理人をやろうと思い、会社を辞め、市内のファミリー向けのレストランで働くことを決めます」

働き始め、料理への興味が高まっていった岡本さんは、店のチーフに本格的に料理の道に進みたいと相談。すると、札幌のホテルニューオータニを紹介されました。ハンバーグやパスタなどの定番の洋食から、フレンチの前菜を仕上げたり、フォン・ド・ヴォーやコンソメも作ったりなど、様々な仕事をしながら忙しく3年を過ごします。

【アミューズ ブーシュ】北海道産のニンジンをムースにし、特製のコンソメにジュンサイ、キャビアを添えて。セージを挟んで低温でゆっくり焼き上げたジャガイモのチップスの、食感と香りが良いアクセント

「ホテルだとお客様との距離が遠すぎて、どんな人が自分の料理を食べているのかがわからない。それがすごく嫌で」。不満を感じた岡本シェフは「どうせ勤めるなら」と、上京を決心。雑誌を読みながら料理人の情報を集めている時、ピンときたのが京橋「シェ・イノ」の井上旭シェフだったといいます。「僕は基本的に『行っちゃえばどうにかなるだろう』という楽天的な性格なようで(笑)。この時も直接お店の扉を叩き、『働かせてください』とお願いしに行きました。井上さんの答えは、『じゃとりあえず働いてみたら』。拍子抜けしましたが、当時は、志願する人は受け入れるけど働き続けられるかどうかはその人次第、という考え方が普通だったんです」

「シェ・イノ」の厨房は、工程ごとに細かく分業制だったホテルとはまったく異なり、スープ、魚など料理ごとに担当が決まっていました。「ゼロから最後まで一つの皿を仕上げていく先輩たちが皆スターに見えて、心から素晴らしいなと感じましたね」

30歳を前に、岡本さんの中ではある思いが大きくなっていきます。それは「フランスに行きたい」というシンプルなモチベーション。本場で腕を磨いた先輩たちの話を聞くにつれ思いが募ります。「井上シェフに相談すると、『まだ通用しない』と取り付く島もない返事。でも諦めずに何度か話してみると、結局は送り出してくれ、パリの現在は3つ星レストラン、『ギィー サヴォア』を紹介してくれます。サヴォアシェフは井上シェフが修業した『トロワグロ』で後輩だった縁もあります」

岡本さんの5年間にわたるフランス滞在はここからスタート。でも当初は言葉がわからない。「実は最初から、言葉が通じなくてもそんなに不自由は感じなかった。日本でも厨房での仕事中はほとんどしゃべらないし、次にすべきことを察するしかないからです。ただ、周囲の同僚からは『フランス語が話せない日本人が来たぞ』と視線は冷ややかでした」

 

【帆立貝のグラティネ セップ茸のクリームソース】ソテーした帆立貝と、セップ茸をはじめ、ホンシメジとシメジ、マッシュルームのキノコで作り上げたクリームソースの取り合わせ。エシャロットの風味も効いている

【オマール海老のソテーとマッシュルームのヴルーテ 赤ワインソース】セップ茸を添えたオマール海老の下には、さらにセップ茸とアーティチョークで作ったピューレを添えて。赤ワインソースが全体をまとめ上げる味の決め手

働き始めて2週間後の夜、岡本さんに大きなチャンスが訪れます。店は80名の予約で満席。当日、岡本さんが担当するのは、全料理の最後の仕上げをするセクションでした。本来は2人で担う仕事なのに、その日は岡本さん一人のみ。同僚皆が不安に思う中、いざ店が始まると、これが非常にスムーズに回り出したといいます。

「前菜、魚料理、肉料理など、すべての皿が最終的に僕のところに回ってきて、僕はそれに付け合わせなどを盛り込んだら、チェックをお願いしに、サヴォアシェフの前に持って行くポジション。『OK』が出れば、その皿がお客様へと運ばれて行きます。ちょっとやってみて、一歩引いて自分の仕事を俯瞰してみると、楽勝に思えました。80名分の全皿が滞りなく提供されると厨房の全員が一安心。するとサヴォアシェフの右腕の料理長が、つかつかと歩み寄ってきました」

いきなりハグされ、「メルシーボークー!(本当にありがとう!)」のひと言。役割を成し遂げた充実感の中で、フランスの料理人たちから「やるじゃん!」「お前なら安心して任せられる」と声をかけられ、力量を認められた瞬間。「やっぱりとても嬉しかったですね。この日を境に、同僚全員の態度が変わりました。それからは他のいろんなセクションの仕事を希望すると、料理長が『オカならいいよ!』と快諾してくれ、経験を積めました」

【ポロ葱のフラン 貝類のソースで】ポロ葱は岡本シェフの得意の食材。ピューレにした後、茶碗蒸し風に仕上げたポロ葱のフランに、北海道から届いたホッキ貝などの魚介と、貝からとっただしで作ったソースを合わせた

最後に務めたのがパティシエの仕事。当時、「ギィー サヴォア」のパティシエは、その年のフランスNo.1パティシエに選出されたフィリップ・シャポーンさんでした。「彼と知り合えたのは幸運でしたね。受賞パーティーがあった時、僕も出席。彼の友達で、『トロワグロ』に勤めていたパティシエのフィリップ・ジーブを紹介してもらえたんです。いつか『トロワグロ』で働いてみたいと、日本にいる時から強く思っていました。憧れの井上シェフが腕を磨いた店であり、本人からもよく話を聞きました。2人のフィリップの力でとんとん拍子に話が進み、ロアンヌの『トロワグロ』に赴くことになります」

「トロワグロ」はちょうど世代交代の時期。「父シェフ・ピエールと息子シェフ・ミッシェルが親子で厨房に立ち、その2人と一緒に働くことができたのは財産ですね。両方のスペシャリテも目の当たりにできて、とにかく楽しかった。一方で、求められるレベルも上がり、いつまでも言葉が通じないでは済まない。仕事に打ち込んだ毎日でした」

【北海道より鮮魚のポワレ ソース・ロワイヤル】函館の魚市場から届くヒラメなどその日だけの魚をポワレにし、下にはキャベツを敷いて。ベルモットを利かせたソースにはバジルやタイムなどの香草の香りがあふれる

1年7カ月後、次に移ったのがピュイミロール村の、現在は3つ星「ミッシェル・トラマ」。実はここも、岡本さんが日本にいた時から、興味があったレストランだったといいます。「ミッシェル・トラマシェフの遊び心のある料理に惹きつけられました。言葉も慣れてきて、シェフからも認められ、2カ月後に店のNo.2である料理長を任せられます」

3年、4年と経過するにつれ、「オカはフランス人よりフランス人らしい外国人だよな」なんてことを冗談半分で言われ始めるようになったそう。「『そろそろいいかな』と帰国を意識しました。僕が学んだフランス料理と文化を次の世代に伝えたいと思うようになります」

【白玉葱のヴルーテ フォワグラのポワレ】北海道で秋に収穫される真っ白な玉葱を使用した優しい味。とろりとしたスープに仕上げ、フォアグラとともに。赤ワインとエシャロットのソースと、トリュフ、黒胡椒が引き立て役

日本に戻り、最初に務めたのは青山の「アンカフェ」の料理長。パスタやサンドイッチなども作る一方、グラン・メゾンばりの本格的な料理も提供。「自由だった分、一番可能性を感じました。次に博多全日空ホテルから料理長のお話をいただきます。フグやイサキ、呼子のイカ、大分の鶏、宮崎や佐賀の牛など、素晴らしい食材に出合えて楽しかった」

1年の契約を終え東京に戻ると、「シェ・イノ」の井上シェフより、恵比寿の新店「ドゥ・ロアンヌ」シェフ就任の打診を受けます。「大抜擢でしょうね。僕より上に『シェ・イノ』に勤めていた先輩たちが何人もいます。正直にいえば戸惑いまして、最初は断ろうかと悩みました。ただ、井上シェフが『シェ・イノ』のコピーではなく、新しい形のお店をやりたいという考えを持っていることがわかり、『それなら自分にもできることがあるかもしれない』とお受けすることにしました」

【ポロ葱のテリーヌ 地鶏のレバームースとトリュフのヴィネグレット】岡本シェフのスペシャリテ。自然な甘みのポロ葱、軽いレバームース、ビネガーを駆使したトリュフのドレッシングが渾然一体となった時、驚きのおいしさ

そうなると、新しいアイデアがどんどん湧いてきます。たとえば井上シェフのスペシャリテ、「仔羊のパイ包み焼き“マリアカラス”風」の前に、岡本シェフのスペシャリテである、「ポロ葱のテリーヌ」を出すコースの流れはどうだろう。酸味がキーの岡本シェフの一皿と、濃厚なソースの井上シェフの一皿が響き合う、異なる世代が生むそれぞれのスペシャリテのマッチングを、新しい魅力として提案できるのではと考えたといいます。

「『ポロ葱のテリーヌ』は15年以上前から、今も作り続けているメニュー。湯がいたポロ葱をテリーヌ型に入れ成型し、軽い味わいに仕上げた地鶏のレバームースに、ビネガーを利かせたトリュフのドレッシングを添えます。それぞれを単品で味わっても普通のおいしさ。でも3つを皿の上でぐしゃっと混ぜて食べると、味がジャンプアップするんです」

黒トリュフのドレッシングには赤ワインビネガー、シェリービネガー、バルサミコ酢の3種のビネガーを使用。岡本シェフは酢の他にお酒も多用して駆使するのも特徴で、厨房にはシェリー酒、マディラ酒、ルビー・ポルト、ブランデー、フレンチベルモットと呼ばれるノイリー・プラットなどの瓶がずらりと並びます。

「今のフランス料理界には、ソースがなくなりつつあると思うんです。ソースの決め手の一つになるのがビネガーとお酒です。ソースにこだわり続けることは、『ソースの天才』といわれる井上シェフの下で働き、まだまだソースが輝きを放っていた90年代のフランスで修業した僕の役目でしょうね」

岡本シェフが現在のお店「Remerciements OKAMOTO」をオープンする転機になったのは、2011年3月に起きた東日本大震災でした。「7年半、『ドゥ・ロアンヌ』を続け、評判も上々でしたが、震災後、胸にもやもやと何かが引っ掛かり始めました。被災地のために、日本のために、何かしたいけど何をすればいいかわからない。炊き出しでもいいんだけど、もっと大きな視点で、お店全体としてできることはないのか。井上シェフに相談すると、『それはもう、自分で店をやるしかないぞ』と背中を押され、決心します」

「やりたかったのは、生産者の顔が見え、彼らの情熱が伝わってくる食材を使い、僕という粗めのフィルターを通して、料理の形でお客様にその力を伝えていくこと。食材は故郷の北海道産にこだわります。インスタントな解決ではなく、長いスパンで僕なりの店を続けることが、震災の時に感じたもやもやを解消することになるのではと考えました」

現在の目標は、生涯現役。

「命を作るのは食事なんでしょうね。僕自身の健康も大切にして続けていけたら。お客様は、結局は僕という人間を味わいにくるのだと思いますから」

【《自然の恵み》ジビエの一皿】北海道から一頭丸ごと届いた蝦夷鹿を多彩な部位と調理法のコンポジションで。クラシタ肉はロースト、バラ肉は赤ワイン煮込み、首肉はソーセージ、バラ先はベーコンに。手間暇かけた味わい

【石田めん羊牧場よりサウスダウン種子羊のコンポジション】岡本シェフが惚れ込んだ希少なサウスダウン種の羊は丸一頭で仕入れる。クラシタ肉はロースト、バラ肉は煮込み、首肉はソーセージ、バラ先はベーコンなど多彩な味で

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Remerciements OKAMOTO

Remerciements OKAMOTO

ルメルシマン オカモト

エリア
表参道
ジャンル
フランス料理
営業時間[昼]
[昼]火~日11:30~13:30
営業時間[夜]
[夜]火~日18:00~21:00
定休日

[Tokyo Elite Restaurant]
世界に自慢したいフランス料理のシェフ


美食大国日本。
世界一の美食の街と謳われる、食都「TOKYO」。
ミシュランガイドの星の数においては世界最多を獲得し、その実力を世界に知らしめました。
ここ東京は、世界中の美食家たちを魅了するワールドクラスの実力店がひしめき合っているのです。
その中でも、グルメシーンの最前線を雄飛する、選りすぐりの精鋭シェフたちの存在。
そんな店の作り手でもある、凄腕の料理人たちが腕を振るう飲食店のことを、私たちは「東京エリートレストラン」と敬意をもって名付けることにしました。本企画はそのようなシェフたちを自信を持って世界に自慢したいという思いからはじまりました。

異彩を放つ精鋭シェフたちの背景にある物語や、様々なエピソードを綴っていきたいと思います。

Metro min.WEB編集長
渡辺 弘貴

Remerciements OKAMOTOルメルシマン オカモト

営業時間 [昼]11:30~13:30(LO) [夜]18:00~21:00(LO) 定休日 月

住所:
〒107-0062 東京都港区南青山3-6-7 b-town 1F
TEL:
03-6804-6703
URL:
http://chefokamoto.com/

文:佐藤太志 写真:片桐圭

更新: 2017年10月30日

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