Toshihiro Komine

「小峰敏宏」
Cave de Com,ma
神楽坂

文:佐藤潮(effect)
写真:竹内洋平

約30mにも渡るウォークインセラーで選び抜いたワインに合わせ、日本における野菜フレンチの先駆者、小峰敏宏シェフが料理を仕上げるワインショップ併設のレストランです。

小峰敏宏(こみね・としひろ)

1956年生まれ、埼玉県出身。代官山「小川軒」の系列店と、かつて神戸にあった「アラン・シャペル」で約5年間の修業後に渡仏。「タイユヴァン」、「ラ・メール・ブラン」などで研鑽を積み、帰国後は駒沢「ラ・ターブル・ド・コンマ」のシェフを務め、2012年11月神楽坂「カーヴ・ド・コンマ」のグランドオープンと同時にグラン・シェフに就任。

40年以上、消えることなく燃え続ける情熱の火。次は何を照らし出すのか……

抱いた夢を現実に。ミシュラン3ツ星店を渡り歩く

男3人兄弟の次男として誕生した小峰シェフ。幼少の頃からモノづくりの楽しさに夢中となり、その矛先は自然と料理に向かっていきました。料理好きの母親の手伝いを率先してこなした小学校時代。すでに頭の中では料理人として活躍する自分の姿が想像できていたそうです。「実は全然覚えてないのですが、小学校の卒業文集に書いてあって」と笑う小峰シェフ。中学に上がった後は、叔父と親しい料理人に出汁から作るラーメンを習い実践したり、レシピ本を熟読しながらお菓子作りに挑戦したり、より本格的な調理へと興味は移り変わりました。もちろん、高校卒業後は調理師学校へ入学。そこで人生を変える出会いがあったのです。
「1970年代、フランスで修業をした料理人が続々と日本へ戻ってきた時代でした。私の恩師もその1人。帝国ホテルのシェフと兼業で教師をしていたのです。修業中の話を聞くうちに本場への想いは高まる一方で『どうすればフランスで修業ができるのか』と、授業を丸ごと潰して教えを請うこともありました。そうして私を可愛がってくれた恩師のアドバイスに従い、まずは日本で基礎を築こうと就職先を探したのです。しかし狙っていたフレンチの求人はなく、あるのは昔ながらの洋食屋ばかり。ならばと、老舗中の老舗の門を叩くことにしたのです」

最初の修業先となったのは1905年創業の『代官山 小川軒』。その系列店にてデミグラスソースやベシャメルソースなど、日本独自に進化した洋食の技術を吸収できたのは貴重な経験だったと小峰シェフは当時を振り返ります。また、その頃からフランス語を少しずつ学び、渡仏に備えていたそうです。やがて料理界のダ・ヴィンチと呼ばれたフランスの天才3ツ星シェフ、アラン・シャペルの店が神戸に上陸すると聞きつけ、オープン1年前からアプローチを開始。見事、最先端のフレンチに触れるチャンスをものにしました。

結婚し、子どもが生まれたこともあり、渡仏は半ば諦めていたという小峰シェフ。しかし、神戸の『アラン・シャペル』で学ぶほどにフレンチの奥の深さを思い知り、他の本場の名店はどのようなソースを作るのかなど、興味はさらに膨れ上がりました。1986年、奥さまを説得して単身フランスへ向かい、ミシュラン3ツ星の代名詞とまで言われたパリの名門『タイユヴァン』にて修業を開始します。「妻とは1年だけの限定と約束していましたが、どうしても30代という若さでミシュラン3ツ星シェフとなったジョルジュ・ブランの下でも働きたくなり……」もう1年ほど修業を延期。本場の『アラン・シャペル』での正式採用が決まるほど現地でも信頼を集めることになります。

東京での挑戦、苦難の中で見出されたのは野菜の底力

フランスへの定住は奥さまに猛反対され、渡仏から2年で帰国。名店で磨き上げた自分の技術がどこまで通用するのかを試すために東京へ進出します。そうして誕生したのが、日本の「野菜フレンチ」の先駆者として知られる駒沢『ラ・ターブル・ド・コンマ』。順風満帆の輝かしい経歴の中、そこで大きな壁にぶつかることになりました。

「店が開店した直後、1989年の1月に昭和天皇が崩御されました。日本中が空前の自粛ムードに包まれ、外食する方が激減したのです。ほとんどお客さまがいらっしゃらない、どん底からのスタートでした。その後しばらくして、新聞に取り上げられたことが契機となり、段々とテーブルは賑わい始めます。特に中央公論社のムック本『シェフ・シリーズ』にて、野菜を美味しく堪能できるフランス料理店として紹介されたのが大きかったですね。実は元々、自分の強みが野菜フレンチであることを自覚していた訳ではありませんでしたから」

そもそも小峰シェフの根源にあるのは、付け合わせと主菜が一体化したものが多かった『アラン・シャペル』の料理です。それに触発され芽生えたのは、野菜とソースの組み合わせで1つの新しい味を生み出すアイデア。本場の名店においてもコースの中で野菜が占める比重は大きく「フランス修業中は毎日が必死で、新しい料理を考える余裕などありませんでしたが、あの時代に培ったものが蓄積されたのでしょう」。そうして自然発生的に「野菜フレンチ」という新ジャンルが確立されたのです。

メニューに生産者名を書き添えるというのも、20年以上前の当時は斬新な試みでした。そもそもは季節の野菜を仕入れに、農家の元まで直接出向いたのがきっかけ。手間ひまかけて作られた野菜の美味しさに心を打たれ、感謝の念から名前を載せるようになったそうです。野菜を作る現場で得たインスピレーションは、メニュー開発にも良い影響を与え、小峰シェフの料理はより卓越したものへと進化します。さらに野菜や生産者を大切に扱う行為は次第に普及し、日本のフランス料理界全体にもプラスの影響を与えることになりました。

新天地で目指すはワインと響き合う楽しいフレンチ

【小ウサギのロニョナード】ウサギの背肉で腎臓を包みロースト。きめ細かな肉質と凝縮された旨みがたまりません。ソースはウサギの骨のエキスを抽出しフォアグラやバターを加えたもの。ヒメニンジンを添えているのもウサギ料理ならではのアイデア

2012年、『ラ・ターブル・ド・コンマ』は多くのファンに惜しまれつつ、人気絶頂のまま25年の歴史に幕を下ろすことになりました。50代を目前とした小峰シェフの次なるステージは神楽坂に誕生した『カーヴ・ド・コンマ』。前店よりもリーズナブル、ビストロ感覚で楽しめる本格フレンチを、多彩なワインと調和させることが新しいテーマです。

「以前はコース料理を中心に考えてソムリエがワインを提案するのが基本でしたが、現在はワインに寄り添うようにして味付けの方を整えています。例えば、スパイス感のある赤ワインに野菜を合わせたいというオーダーを受けた場合、マリアージュを考えながら、より香ばしく料理を仕上げるのです。即興性が求められるからこそ、これまで蓄積した長年の経験が生き、楽しみながらも程良い緊張感の中で調理場に立つことができます」

そう語る小峰シェフが見つめる先にあるのは、ガラス窓で仕切られた約30mのウォークインセラー。こちらは銀座のワインショップ『アロムヴェール』の姉妹店です。ゲストは約300種という豊富なワインから本日の1本を厳選し、通常の店頭価格で購入。抜栓料を支払うことで併設のレストランで楽しむことができるシステムになっています。
店内は本場のカーヴ(ワイン蔵)を連想させるレンガ造り風の空間。温かみのあるアンティーク家具を配した心落ち着く雰囲気です。壁に並ぶサインは、フランスから訪れたワイン生産者たちのもの。彼らとの交流もまた、小峰シェフのメニュー開発の原動力となっています。

「料理のアイデアはいつか枯渇するものです。だからこそ多くの食材と、その生産者たちに興味を持ち続けることが大切だと考えています。あの人が作った、この時期だけの特別な材料を駆使して新メニューを開発したいと、長年挑戦しているものもあるのですが……残念ながらお客さまにお出しする完成度には達せず、また来年まで持ち越しているものも、実は結構あるのです」

【グルヌイユのフリット】モモ肉を骨から逆むき、チューリップ状に仕立てた食用カエルはフランスのラングドック地方産。その力強い旨みを活かしたジューシーなフリットです。ヒメダイコンや枝豆、ルッコラなどを用いた2種の濃厚ソースでどうぞ

素材と料理と人を結ぶ。次世代のフレンチ界への橋渡し

「現在の一番の目標は後継者を育てることです。長年、厨房を共にしてきた藤谷弘志シェフは、2010年にフランスへ送り出すことができ、2015年からは大崎の姉妹店『ラ・クール・ド・コンマ』にて料理長を任せることができるようにまでなりました。彼も自分なりのフレンチの世界を、これからさらに広げていくことでしょう。料理の世界は日進月歩で変化を続けています。そして今、私が教えられる技術は、最先端のものではありません。調理器具なども次々に新しいものが開発されています。そんな中で私にできることは、1人でも多くの若いシェフを導くことなのです」

【野菜のエトフェ】とろけるように柔らかいカリフラワーや表面はパリッと中はホクホクのカボチャなど、素材それぞれに適した絶妙な火入れが美味しさの秘訣。三浦半島産の各種野菜の食感や味わいを無水調理により見事に強調しています

まだ知られていない優れた食材を世に広めたい、これまで培ってきた技術を地方にも伝えたいなど、他にも多岐にわたる小峰シェフの夢。野菜フレンチの第一人者としてだけでなく、1人の料理人としても真摯に食材やワインと向かい合っています。幼い頃に思い描いた理想の料理人より悠か高みに到達しながら、その情熱の火は今なお勢いを増し続けているのです。

プランの詳細を見る Powerd by OZmall

Cave de Com,ma

Cave de Com,ma

カーヴ ド コンマ

エリア
神楽坂
ジャンル
フランス料理
営業時間[昼]
[昼]12:00~15:30(14:00LO)
営業時間[夜]
[夜]18:00~23:00(21:00LO)※バー利用のお客様は22:00LO
定休日
月、第3日曜

[Tokyo Elite Restaurant]
世界に自慢したいフランス料理のシェフ

美食大国日本。
世界一の美食の街と謳われる、食都「TOKYO」。
ミシュランガイドの星の数においては世界最多を獲得し、その実力を世界に知らしめました。
ここ東京は、世界中の美食家たちを魅了するワールドクラスの実力店がひしめき合っているのです。
その中でも、グルメシーンの最前線を雄飛する、選りすぐりの精鋭シェフたちの存在。
そんな店の作り手でもある、凄腕の料理人たちが腕を振るう飲食店のことを、私たちは「東京エリートレストラン」と敬意をもって名付けることにしました。本企画はそのようなシェフたちを自信を持って世界に自慢したいという思いからはじまりました。

異彩を放つ精鋭シェフたちの背景にある物語や、様々なエピソードを綴っていきたいと思います。

Metro min.WEB編集長
渡辺 弘貴

更新: 2017年10月15日

この記事が気に入ったら
「シェア」しよう

最後までお読みいただき、ありがとうございます

pagetop