[Tokyo Elite Restaurant]
L'appartamento di NAOKI

Naoki Yokoe

横江直紀

文 :戸田千文 写真:牧田健太郎

「友人の家に遊びに来るように、気軽に訪れてハッピーな気持ちになってほしい」。そんなオーナーシェフの思いで誕生したのが、麻布十番のイタリアレストラン「ラパルタメント ディ ナオキ」です。シェフの確かな腕と持ち前のアーティスティックなセンスで生み出される色気ある料理は、オープン以来、多くの美食家を魅了し続けています。

横江直紀(よこえ・なおき)

1972年、愛知県生まれ。学生時代に手に取った1冊のレシピ本に魅了され料理の道を志し、地元のフレンチレストランでアルバイトを始める。その後、イタリアンの道へ。イタリアで2年半の修業から帰国後、都内にて数件のイタリアンレストランを経て、2010年12月に麻布十番に「ラパルタメント ディ ナオキ」をオープンさせた。

”料理はアート” 自分らしい表現を求めて料理の世界の扉を開く

「もともと工業デザイナーを目指していて、その勉強のために大学に通っていたのですが、通いながらもこの先どうなりたいのか悩んでいました」。そう話すのは麻布十番の人気イタリアン「ラパルタメント ディ ナオキ」のオーナーシェフ横江直紀さん。地元・愛知の大学に入学した頃は、料理への興味関心もなく、包丁を握ったことがないどころか、カップラーメンすら自分で作ったことがなかったと笑います。

そんな横江さんが料理の道を歩み始めたのは20歳を過ぎた頃。何気なく入った書店で偶然開催されていた料理本フェアで、何気なく手に取った1冊のレシピ本がきっかけでした。「『これはすごくアートだ!』と感動してしまって。料理を作るとか、食べるとかではなく、その見た目から料理の世界に入ったのです。もともと工業デザイナーを目指していたのも、自分だからこそ表現できるものをずっと探していたから。家だったり、橋だったり、そういうものを造って『自分だからこんなふうにできた』という表現ができるかなと思って。だからその本を見て、料理ってこんなことが表現できるんだって一気に引き込まれましたね」

料理の経験はゼロ。フランス料理のアルバイトから始めた

そこで横江さんは、まず近所のフレンチレストランでアルバイトを始めることになりました。しかし料理の経験はゼロ。当然ホールスタッフからのスタートです。当初は1年ほどサービスを勉強するようシェフから言われていたものの「あまりに僕が生意気だから、早々にホールから追い出されて(笑)。3カ月後には厨房に入れてもらいました」と苦笑い。

厨房に入ってからは皿洗いやサラダの準備など簡単な仕事をこなす日々。いい意味でも悪い意味でも、料理に対しての先入観がなかったため、言われたことを素直に受け止めその通りにやることを心がけていました。一方で、「自分で個性が出せそうなところは勝手に変えていました。盛り付けを自分なりにアレンジしたりして…」という横江さんらしい一面も。

「最近、このお店の料理が変わったね」と常連のお客さんから声が上がったのもこの頃。横江さんがシェフに黙って盛り付けや見た目を変えていたことが影響していました。それからはオーナーやシェフが盛り付けについて横江さんの意見を取り入れるようになり、挑戦できる幅が一気に広がります。「料理は全然できなかったけれど、褒められたから、これは料理の道でもイケるんじゃないかって有頂天になっていましたね(笑)」

イタリア語の知識ゼロ。『やさしいイタリア語会話』片手に渡伊

横江さんがイタリアへ渡ることを決めたのは、アルバイトから始めた愛知のフレンチレストランで6年の修業を積んだ頃です。当時、流行していた生パスタに興味を持ち、愛知県内のレストランでいくつか食べ歩いたものの、どれも味がイマイチ。そんな中、唯一おいしいと感じたのが、イタリア人シェフが手掛けた生パスタでした。「やっぱりイタリア人が作るパスタは違う、パスタを勉強してみたい。そう思ったんです。最初は上京も考えましたが、シェフの勧めで実力社会のヨーロッパに渡ることを決めました。3カ月、いわゆる土方の現場で仕事をしてお金を貯めたんです。お金を貯めることだけに集中していたから、語学も勉強する時間がなくて、直前に書店で『やさしいイタリア語会話』みたいな本を買って、飛行機で読みながらの出発でした」

実力社会のイタリアへ リゾットが評判を呼び「ヴェネチア新聞」から特別賞を受賞

イタリアでは日本と提携する調理師学校へ入学。仲間たちといくつかレストランを回り、北と南では料理が大きく変わるイタリアで、最終的にフランスに近い北側の料理を勉強することに決めます。転機となったのはイタリアを訪れて1年経った頃のこと。当時働いていたシェフの紹介で、ヴェネチアに新たにオープンするレストランでシェフに就くことになり、看板メニューのリゾットを担当することになったことでした。食文化への興味関心が高いヴェネチアでは、ローカル紙「ヴェネチア新聞」で読者から投票を集めてレストランのランキングを毎週発表するコーナーがあり、横江さんのリゾットが半年以上、人気投票1位を獲得したのです。飲食店の競争が激しいこのエリアで同じお店が半年以上もその地位を譲らないというのはヴェネチア新聞紙上初めてのことで、特別賞が授与されました。

お店には評判を聞いて、リゾットを目当てにたくさんの人が訪れます。イタリアの人にとって、ここまで評判のリゾットを生み出したシェフが日本人であることは想定外。シェフとして横江さんが紹介されると「え!? ジャポネーゼ!?」と驚く人がほとんどだったそうです。

一方、そんなイタリアで横江さんが感じたのは、料理人に対するリスペクトの高さ。「日本では料理人になろうって言うと、みんなに反対されました。せっかく大学に行ったのに、料理人なんて情熱を傾ける仕事じゃないんじゃないかって。でもヨーロッパの人たちは違う。それに料理を作る人もみんな楽しそうなんです。誇らしげに仕事をしているのがすごくいいなと思いました」

失敗の経験をもとに自分を追い込み「言い訳ができない店を作ろう」

帰国後はイタリアでの経験を生かして、いくつかお店でシェフを務めた後、2010年に今の店をオープンさせましたが、実は以前にも共同経営というかたちでオーナーシェフをしていたことがありました。しかし当時の店はうまく軌道に乗せることができず、繁盛しないまま共同経営のパートナーとも喧嘩別れをすることに。

「その時はうまくいかなかった理由をいろいろと考えて、言い訳にして自分を納得させたんです。だから次は、言い訳ができない店を作ろうと思いました。自分が思う通りの店にしよう。それがだめなら自分に実力がないから諦めようと」

料理はもちろんのこと、横江さんは、それ以外のことも全て妥協しませんでした。場所は愛知に住んでいた頃ラジオで聞いて憧れだった麻布十番に決めて、内装は「ザ・ペニンシュラ東京」などを手掛けた橋本夕紀夫さんに依頼。さらにカトラリーレストやナプキンリングなども横江さんがデザインしたオリジナルでそろえました。そこまで追い込んで誕生したのが「ラパルタメント ディ ナオキ」だったのです。

L'appartamento di NAOKIは「ナオキのアパート」のこと

店名は「ナオキのアパート」という意味で、知人の家のように気軽に訪れて、おいしいものを食べてハッピーになってもらう店にしたいとの思いが込められています。「料理メニューはコースのみですが、あえてカウンターを多く設けています。お客さんにはライブ感を味わってもらいたいし、会話をしながら料理を味わってもらいたい。会話をしていると食材の話で盛り上がったりして、それがまた料理の1つのアクセントになるんです」

シェフとの距離が近いオープンキッチンカウンターと、6名まで使える個室もある

一皿の向こう側にある全てのことにリスペクト

料理を作る上で、関係する全てのものに対してのリスペクトを大切にしているという横江さん。生産現場を訪ね、食材が届くまでの工程を見て、生産者の「おいしいものを作りたい」という思いの強さを肌で感じることも多いそう。
「食材、道具その全てがそろわないと僕は仕事ができないんです。だから農家や酪農家、漁師の方はもちろん、道具を作ってくれる人に対して、恥ずかしくない仕事をしたい。彼らの思いを、僕が最後に仕上げてお客さんに喜んでもらえるようにするんです。責任重大ですよね」

料理の付加価値に「色気」を追求する

横江さんが料理に求めるのは、「体にいいものであって、食べてハッピーになれるもの」。さらにそこにプラスして大切にしているのが「色気」です。「色気というのは、艶っぽさ。うっとりできるような恍惚感を表現したい。大体の人はレストランで食事を楽しんだ翌日には、いつも通りの生活に戻って会社に行って仕事をするでしょう。そんな人が、仕事の合間のお昼に『昨日のパスタおいしかったな』と思い出してもらえるような、そんな料理を作りたいんです」

【スクナカボチャのスープ】

飛騨高山で栽培される甘味が強いスクナカボチャを生かした鮮やかなスープは、滑らかな舌触り。スープの上にはフランス・モンサンミシェル産のムール貝が。貝特有の香りと味わいが、カボチャ本来の甘味をさらに引き立てる

【前菜の盛り合わせ】

定番のカプレーゼやパテ、テリーヌ、パンナコッタなど6種が味わえる。パテは猪肉や栗を、またテリーヌは紫イモとスモークしたサンマを使うなど、定番さの中にも旬の食材をフレキシブルに取り入れることで、季節感を見せる

【イトヨリ鯛のオーブン焼き】

イトヨリで包むのはクルマエビとブロッコリー。香り高くふわっとした優しい白身魚から、ほぐれるようにエビとブロッコリーがあふれ出し、歯応えのギャップを感じることができる。イトヨリ鯛と同じ淡いピンクのスープは金時草からとったもの

【アグー豚のポルケッタ】

「珍しく仕入れた」というアグー豚のバラ肉は、ローズマリーやエシャロット、ニンニクなどをすり込んで8時間じっくり低温で火を通したポルケッタに。インカのめざめで作ったベシャメル風ソースと絡めていただく

【自家製ビーゴリ】

伊達鶏のラグーソース銀杏添え。「味がしっかりしているのに軟らかい肉質。鶏肉を初めてパスタソースに使いたいと思った」と横江シェフが絶賛する福島産伊達鶏のラグーソースパスタ。香ばしく焼いた鶏皮もミンチにして加えたソースは、香ばしさもあり食べ応えあり

【ポルチーニと落花生のリゾット】

目の前に出された瞬間、まずはポルチーニの香りにうっとり。絶妙な硬さを残す米にほくっとした落花生、さらに濃厚になるポルチーニとチーズの香りが織りなす一体感は、食べた人にしか分からない至福の体験

【イチジクのタルト】

「重たくなり過ぎないように」とタルト台は薄いパスタを揚げて作ったオリジナル。じわじわと時間をかけてオーブンで火を通したイチジクからは、ほのかにアルコールのような風味が感じられる。黒糖のアイスも甘過ぎず美味

10年を区切りにNYを目指す。次のステージで50代の表現を楽しみたい

そんな横江さんに今後の展望を尋ねると、この冬7年目を迎える「ラパルトメント ディ ナオキ」について「10年を区切りと考えています」とずばり。その後は舞台をNYに移すことが目標です。さまざまな国のレストランが混在するグルメな街が東京、パリ、NY。ヨーロッパでイタリア料理の楽しさを学び、東京で自分を追い込み妥協することを許さず勝負した10年の経験をもとに考えた次のステージです。「NYで自分の味が受け入れられるかどうか、分からないですけど…」と漏らす横江さんですが、その声は弾みます。

「その頃には僕も50代を迎えます。今は40代の表現だけれど、50代になれば50代の表現がある。そこで自分がどう変わっていくか、楽しみでもあります。今の店は、“リストランテ”“トラットリア”といった冠をあえて店名に付けなかったんです。枠を外したら、表現できることが増えていくから。次のステップである50代では、もう1つ枠を外したい。僕だからこそできるっていう表現をもう1つやってみたいですね」

その冒険心が現れる料理は、見た目の美しさだけではなく、一口ごとに驚く仕掛けが散りばめられています。香りや食感、味わいの予想外の驚きは、美食家にとって喜びそのもの。そのギャップもまた、ついつい追いかけたくなる“色気”の1つなのです。

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L’appartamento di NAOKI

L’appartamento di NAOKI

ラパルタメント ディ ナオキ

エリア
麻布十番
ジャンル
イタリア料理
営業時間[昼]
[昼]日12:00~15:00(13:00LO)
営業時間[夜]
[夜]火~金18:00~23:00LO、土日~21:00LO
定休日

[Tokyo Elite Restaurant]
世界に自慢したいフランス料理のシェフ

美食大国日本。
世界一の美食の街と謳われる、食都「TOKYO」。
ミシュランガイドの星の数においては世界最多を獲得し、その実力を世界に知らしめました。
ここ東京は、世界中の美食家たちを魅了するワールドクラスの実力店がひしめき合っているのです。
その中でも、グルメシーンの最前線を雄飛する、選りすぐりの精鋭シェフたちの存在。
そんな店の作り手でもある、凄腕の料理人たちが腕を振るう飲食店のことを、私たちは「東京エリートレストラン」と敬意をもって名付けることにしました。本企画はそのようなシェフたちを自信を持って世界に自慢したいという思いからはじまりました。

異彩を放つ精鋭シェフたちの背景にある物語や、様々なエピソードを綴っていきたいと思います。

Metro min.WEB編集長
渡辺 弘貴

L'appartamento di NAOKIラパルタメント ディ ナオキ

L'appartamento di NAOKI

住所:
東京都港区麻布十番3-3-9
COMSAZABUJYUBAN 4F
TEL:
03-5765-7360
□交通手段:
麻布十番駅 1番出口から徒歩3分 麻布十番駅から328m
□営業時間 :
[火~金] 18:00~23:00(L.O.) [土] 18:00~21:00(L.O.) [日] 12:00~13:00(L.O.) 18:00~21:00(L.O.) ※日曜日のランチは、前日までの予約制にて承ります。※営業中は電話に出られない場合がありますので、ご予約のお電話はできるだけ12:00から17:00の間にいただけますと助かります。
□定休日:
月曜日
□サービス料・ チャージ:
個室(テーブル席)ご利用の場合のみサービス料10%頂戴しております。
URL:
http://www.naokiyokoe.com/

文 :戸田千文
写真:牧田健太郎

更新: 2017年10月14日

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