[Tokyo Elite Restaurant]

Franco-japonais 大とし

Yoshihiro Otoshi

大利 吉弘

文 :浅井直子 写真:竹内洋平

2016年、神戸より移転オープン。フランス料理畑ひと筋ながら、いや、だからこそ、味噌や醤油を自在に使いこなす「大利流」のフランス料理は、兵庫発セネガル経由で、赤坂にたどりついたのです。

大利吉弘(おおとし・よしひろ)

兵庫県出身。1971年生まれ。調理師学校を卒業後、兵庫県・西宮のフランス料理店「瀬田亭」にて修業。 その後、料理教室の運営などを経て、在セネガル日本大使館公邸料理人に。 2年間のセネガル赴任後、神戸にてフランス料理店「TUUTI TUUTI」をオープン。 当時から名物だった「鴨鍋」が評判となり、都内百貨店のお歳暮にも登場。 2016年11月、東京・赤坂に「大とし」と名を改めて進出。

割烹料理の家業を継ぐはずが、修業先でフランス料理と出合い運命が変わる

元々、割烹を始め数店舗の飲食店を経営する家に生まれた、「大とし」オーナーシェフの大利吉弘さん。将来家業を継ぐためにも、調理のことを知っておいた方が良いと考え、調理師の専門学校に進みます。「僕が学生の頃は、和食の世界は閉鎖的なイメージが強かったので、フランス料理を選択しました。今思うと、あまり深く考えていなかったですね(笑)」と当時を振り返る、大利さん。卒業後は、兵庫県西宮にあったフランス料理店「瀬田亭」(現・ビストロ瀬田亭コツナ)に入店します。そこでの5年間が、「フランス料理の道へなんとなく入った」大利さんを覚醒させました。

「実家が和食屋ですから、いざ、フランス料理店に入ってみると、知らない料理だらけで。食材そのものも違いますし、何より、その当時はテレビや雑誌で見たことはあっても、まだそれほどフランス料理が身近ではない時代でした。フランス料理と言えばクリスマス料理という、非日常のもの。20歳そこらの僕からすれば、雲の上のようなメニューばかり。そういう料理を作れることが楽しかった」

師匠である瀬田亭、瀬田金行シェフは、現地での修業を経験したフランス修業第1世代に当たりますが、作る料理そのものは、基本的にとてもシンプルだったと大利さんは言います。

「例えば、魚が入ったとしたら、身をムースにしようと考えるのが一般的なフランス料理店の発想。でも、西宮で手に入るのは新鮮な魚です。となると、その枠に捉われず、カルパッチョで出した方がおいしい。そんな柔軟な考えを持つ方でした」。フランス料理の物差しを素材に合わせるのではなく、素材の持ち味を生かすこと――そのDNAは、大利さんにも引き継がれ、この後のセネガルでの体験を経て、さらに揺るぎないものとなりました。

セネガルで見つけた、自分らしさ。日本の調味料を積極的に取り入れるように

瀬田亭を卒業した大利さんは、他の修業先に行くことも検討しましたが、瀬田シェフから「師匠はひとり1人でいい。また誰かにつくのではなく、自分の足で立ちなさい」との助言をもらい、縁あって、在セネガル日本大使館公邸料理人となります。外交の舞台においては、フランス料理が基本。しかし、当時の大使は運よく、自由にやらせてくれる人。そのおかげで、大利さんは図らずも結果的に、「大利流」のフランス料理の土台をセネガルで築いていくことになります。

「在セネガル日本大使館に来るゲストは、やはり、どこか日本的なものを期待してくるわけです。それならば、前菜やメインではフランス料理を出して、最後にご飯と味噌汁と漬物を出し、日本の食文化を体感してもらおうと。それ以外の料理でも、醤油などの日本の調味料をあえて使う。すると、それがきっかけで、ゲストの方から、日本ではこういう調味料を使うんですねと会話が弾む。僕がセネガル赴任の2年間で最も大切にしていたのは、料理がおいしいのはもちろん、大使とゲストの会食がいかにスムーズに進むかということでした」と大利さん。フランスとの縁が深いセネガルの日本大使館には、フランス人ゲストも頻繁に訪れます。どこか和のエッセンスを感じさせる大利さんの料理は、そんなゲストたちの舌を喜ばせ、自信へと繋がっていきました。

【北海道産真イワシ 淡路の玉ねぎと焼きなす】なめらかにした焼きなすと玉ねぎを醤油とみりんで調えたソースでいただく前菜。クリーミーなソースには、生クリームが入っていないとういうから驚きです

 

大使の退任に伴い、日本に戻った大利さんは、いよいよ自分の城を持つことになります。場所は神戸・三宮。店名はセネガル語で「ぼちぼち」を意味する「TUUTI TUUTI」。どんなコンセプトだったのでしょう?

「気軽なフランス料理がテーマ。初めはビストロ的な料理でした。豚肉のポトフとか鴨のコンフィとか、カジュアルなメニューが中心です。しかし、続けているうちに、徐々に変わっていきました。神戸って革新的なイメージがあるかもしれませんが、外食に関しては実は保守的。アラカルトメニューも、決まったものしか出ないんです。自分が食べてもらいたいと思ったものがなかなか食べてもらえない。そこで、思い切って10年目くらいから、お任せコースのみにしました。それによって、少しずつでも自分がやりたいことがわかってもらえるんじゃないかと期待したのですが、これがなかなか難しくて。正直、神戸でやるのは限界かなと思い、それなら、もう自分が動くしかないと決心して、東京に移転したのです」

【根室産ウニ 鰹のコンソメ トマトのクリーム】スターターとなる一品。鰹で出汁をとったコンソメと、爽やかな酸味をプラスしたトマトのエキスが入ったクリームソースが、濃厚なウニを引き立てます

【鯛 枝豆とバジルのペースト マッシュルームソース】メインの魚はコクのあるマッシュルームのクリームソースと、さっぱりした枝豆とバジルのペーストの組み合わせで、ソテーした鯛が持つ甘みとマッチ。生クリームを使った料理は、こちらとスターターのみです

【栗かぼちゃと西京味噌のスープ】フランス料理に西京味噌!? いえいえ、これが合うんです。栗かぼちゃの持つ甘味と、西京味噌が持つ甘味が何層にも重なり合って、複雑な味わいを醸し出すスープ

 

思い描いていたイメージにぴったりだった、赤坂の裏道に佇む物件に出合い、とうとう2016年に東京へ。オープンキッチンをウッドのカウンターテーブルがぐるりと囲み、ナチュラルとモダンがミックスされた空間です。

「このカウンター、奥行きが広いでしょう? 90cmもあるんです。ゆったりと食べて欲しいという思いもあるのですが、一番の理由は、神戸時代からの名物、鴨鍋のためにガスコンロが置ける奥行きが欲しくて」

えっ!? フランス料理で鴨鍋!? しかもガスコンロとは、なんて柔軟な発想! 聞けば、毎年、12月くらい~翌年3月くらいの間、コースの肉料理として、通称「鴨鍋」を出しているそう。

「フランス産の鴨のガラスープを、赤ワインや醤油で調えて、鴨のつくねやスライスした肉を食べていただくシンプルな鍋です。食べ終えたら、鍋にトリュフとフォアグラとご飯を投入してリゾットで〆。以前、ある百貨店でお歳暮のセットになったくらい、人気のメニューです」

【豚肉のソテー パッションフルーツのソース】玉ねぎとフォアグラを、神戸産の豚肩ロースのスライスを重ねて包み焼きにした、別名「大人のハンバーグ」。神戸時代からの人気メニューは東京でも健在

 

想像しただけでうっとりしてしまう鍋は、ぜひ、その季節になったら改めて取材させていただくとして、ふと浮かび上がるのが、フランス料理の定義です。大利さんはどのように考えているのでしょう?

「1つの皿の中にフランス料理の技術が入っていることでしょうか。何がフランス料理かと問われると、正直よくわかりません。ただ、和食も中華もやったことがなく、フランス料理しか知らない。自分の中に積み重ねてきたその延長に今があるから、僕が料理をすれば、醤油を使おうが、鍋を出そうが、それがフランス料理になると思っています。最後には食べたお客さんが決めることかもしれません。でもお客さんは、これはフランス料理、これはイタリア料理なんてジャンルを考えながら食べていないと思うんです。鍋の季節以外の〆はトリュフをのせた蕎麦を出していますが、それもれっきとしたフランス料理です」

セネガルで料理を出したフランス人から、「これはフランス料理じゃない」と言われたことは一度もなかったという大利さん。やはり、かの国での2年間は、大利さんのフランス料理観に多大な影響を与えたようです。

東京の自由な風に吹かれて。「フランコジャポネーズ」に、いっそう磨きが

それでは、具体的に「フランコジャポネーズ」と自ら名乗る、「大とし」の月替わりコースメニューを見てみましょう。例えば、取材した9月のコースは、鰹で出汁をとったコンソメと、トマトのエキスが入ったクリームソースで濃厚なウニを食べる「根室産ウニ 鰹のコンソメ トマトのクリーム」がスターター。懐かしい鰹の和の旨みと、トマトの凝縮された旨みに加えて、ほのかな酸味が爽やかさをプラス。和のフィルターを通したフランス料理の始まりを告げるのにふさわしい一品です。温かい前菜には「北海道産真イワシ 淡路の玉ねぎと焼きなす」。焼きなすは裏ごししてソースに。味付けは醤油とみりんにすだちを搾ります。スープは「栗かぼちゃと西京味噌」。ペーストにした甘みのある栗かぼちゃを、同じく自然な甘みを持つ西京味噌と合わせた、掛け算の勝利。メインの豚肉には刻んだ奈良漬と散らして仕上げています。

「もしかしたら、東京の中で最も生クリームが減らないフランス料理店かもしれません(笑)。コースの中でも生クリームをソースに使うのは2品位です」

神戸時代と比べて異なる点を伺うと、大利さんからは、ソースの呪縛から解放されたことという答えが返ってきました。

「神戸時代では、フランス料理と言えばソースだよねと言われることも多くて。バターや生クリームを使わなければいけないのかな、でも、もっと軽やかで、トータルでおいしければ、例えば、パッションフルーツを潰しただけのソースでも肉のおいしさを引き立てるならそれもフランス料理でいいんじゃないのかな?と。今、東京では、自分がいいと思う味を構築してお出ししています。より肩の力が抜けて、自由になれた気がします」

【トリュフと温泉玉子 トマト 冷たい安曇野のお蕎麦】「単純に僕が好きだから」と〆には蕎麦がオンリスト。そばつゆの出汁にはしっかりトマトの酸味が効いていて、お腹いっぱいのはずが、するりと入ってしまいます

今後は、東京の魚の熟成文化に対して、西の鮮度のいい魚の良さを伝えていきたいと意気込む大利さん。関西では活きのいい魚の状態のことを“いかってる”と言うのだそうで、「いかってる魚がおいしいことを、フランス料理で表現したい」とのこと。そろそろ、東京に進出して1年近く。大利さんらしいフランス料理は、自由な風に吹かれながら、まだまだ進化を遂げるに違いありません。日本の食文化に軸足を置いたフランス料理に、要注目です。

4名から個室利用も可能

[Tokyo Elite Restaurant]
世界に自慢したいフランス料理のシェフ

美食大国日本。
世界一の美食の街と謳われる、食都「TOKYO」。
ミシュランガイドの星の数においては世界最多を獲得し、その実力を世界に知らしめました。
ここ東京は、世界中の美食家たちを魅了するワールドクラスの実力店がひしめき合っているのです。
その中でも、グルメシーンの最前線を雄飛する、選りすぐりの精鋭シェフたちの存在。
そんな店の作り手でもある、凄腕の料理人たちが腕を振るう飲食店のことを、私たちは「東京エリートレストラン」と敬意をもって名付けることにしました。本企画はそのようなシェフたちを自信を持って世界に自慢したいという思いからはじまりました。

異彩を放つ精鋭シェフたちの背景にある物語や、様々なエピソードを綴っていきたいと思います。

Metro min.WEB編集長
渡辺 弘貴

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Franco Japonais 大とし

Franco Japonais 大とし

フランコ ジャポネーズ オオトシ

エリア
赤坂
ジャンル
フランス料理
営業時間[昼]
12:00~13:30(LO)
営業時間[夜]
18:00~21:30(LO)
定休日
月 (予約がない場合は日曜日のディナーから休業)

文 :浅井直子
写真:竹内洋平

更新: 2017年9月29日

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