日々をより豊かに暮らすためのヒント集
|料理家のご馳走モノ|スズキエミさん

「馳走」とは、昔、大事な客人をもてなすために馬を走らせ、奔走し、様々な食材を調達してきたことに由来する言葉。江戸時代後半には、もてなされたことへの感謝を込めて、「御馳走様」が食後の挨拶として使われるようになったと言われています。そして、「ご馳走」と言えば「もてなし」や「豪華な食事」という意味になるわけですが…、しかしながら思うのです。モノやコトに溢れた時代に暮らす私たちのご馳走とは、“もてなし”や“豪華”に限らないのではないでしょうか。例えば、誠実に育てられた野菜、大好きな母の手料理、大切な人とテーブルを囲む時間なども、“日々のご馳走”と呼ぶことができたり。普段の食事が自分にとって“ご馳走”である、そんな風に言える暮らしに憧れて、私たちは料理家の皆さまに会いに行くことにしました。なぜならきっと料理家とは、“日々の食事”を“日々のご馳走”に成長させるアイデアを提案してくれる存在。だから様々な料理家さんにお会いして、まずは料理をする上で大切にしているモノ=食材・食品・道具など(名付けて「ご馳走モノ」)を教えていただきながら、料理のこと、暮らしのこと、話を聞いてみたいと思います。料理家たちの言葉をヒントに、皆さんも、自分にとっての日々のご馳走のこと、ぜひ考えてみてください。

気持ちをかけたごはんを大切にしていきたい。

「子どもの頃、祖母がよく『美味しく食べるために面倒臭いなんてない』と言っていました。だから、自然とそういう感覚が身に付いているようです。例えば、野菜を切る時にスライサーを使えば早いですが、均等すぎて食感にリズムが出ないなと感じます。

だから、やはり面倒臭がらずに手で切った方が、結果、美味しく食べられると思うのです」。スズキさんは、イベントなどで大根を千切りにしないといけない時でも、すべて包丁を使うと言います。

「大根をおろす時も鬼おろしを使うと食感も残りますし、甘味も際立ちます。こういう時に、道具の力を感じますよね」そんなスズキさんが生まれ育ったのは、宮城県石巻市。家の前に広がるのは田園風景、そしていつも一緒に賑やかな家族がいたそうです。

「うちは祖父母が農家で、お米を育てていたんです。田植え、稲刈りなど、何かある度に近所の人が集まるのが当たり前の家でしたから、家の中はいつも賑やかでした。おばあちゃん、お母さんが料理を作り、大勢で食事をするのなど当たり前。でも、そうではない日でも食べることがとにかく好きな家族だったので、食事が終わってもデザートを食べたり、長い時間、団らんしていましたね」。

そんな家族のおかげか、スズキさんは料理家の道に、そして2人の弟は和食の職人とフレンチのシェフになったそうです。さて、スズキさんに、料理を作る時に一番大切にしていることは?と聞いてみたところ、「気持ちをかけること」とのことでした。

「単純に時間をかけるということではなく、食材がどのようにしたら美味しくなるかを考えたり、五感を使って料理をしたり。ゴマをすった時の香りの出方、青菜を茹でた時の色が変わる瞬間は作った人にしかわかりません。五感で料理を感じることで、気持ちをかけられるようになると思うんです」

上の4点の写真は、それぞれスズキエミさんの暮らしの中で特に活躍しているモノたち。土鍋、煮干し、さらし、そしてお米です。

土鍋は「味噌汁用」「炊飯用」「煮物用」など用途ごとにいくつかを使い分けているそう。「土鍋でお米を炊くと、ふっくら仕上がります。出汁も、土鍋で取ると灰汁が出にくい気がしますよね」(スズキさん)。

また、煮干しはスズキ家の基本だし。朝か晩に必ず1.2Lずつ毎日にぼし出汁をとり、汁ものや煮物などに活用しています。身が大ぶりのものを使用し、取り出したにぼしは息子さんのおやつになるのだとか。

お米は、以前は実家から取り寄せていましたが、震災後は稲作ができなくなったため、ご主人の実家がある北海道のお米「ふっくりんこ」「ゆめぴりか」「ななつぼし」の3種を取り寄せています。そして、さらしは毎日必ず欠かせないもの。

水切りをしたり、茶巾にしたり、ご飯の保温の蒸籠を包んだり、ラップやペーパータオルの代わりに使っています。40cmほどのサイズに切って使うと乾きも早く、使い勝手が良いそう

スズキエミ

料理家 スズキエミ

東京でレストランやカフェに勤務し、料理家として独立。素材の持ち味を生かす丁寧なごはんのレシピを書籍や雑誌で提案している。料理教室「暦ごはんの会」主宰。また、『スズキエミさんのいただく野菜』などの著書がある。最新刊は『野菜ごはん』

contributing Editor&Text バブーン(矢作美和、古里文香、茂木理佳、川上萌、井上真子人)
Photo:長野陽一

※こちらの記事は2016年4月20日発行『メトロミニッツ』No.162掲載された情報です。

更新: 2016年10月24日

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